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若槻 風亜
若槻 風亜
novelistID. 40728
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【サンプル】六芒小隊

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「名前!?  名前くれるの先生?」
「ほんと? ほんとうにくれる?」
「いいんですか? 私たちに?」
「欲しい! 名前欲しいです」
「どんなの? どんなの!? 番号じゃない普通のですか?」
「ください先生!」

 先ほどまでの疲れが一気に吹っ飛んだように、こぞって〝先生〟に飛びついた。恥も外聞もなく飛びつく様子に少し面を食らった様子を見せるが、〝先生〟はにこりと笑うと手帳を取り出した袋からガラス球を取り出す。それをメモ帳の上にかざすと、月や星の光が集められ、人工的なそれよりもずっと柔らかな光のライトとなった。

 〝先生〟はぱらりぱらりとメモ帳をめくっていく。

「じゃあ俺が昔世話になった人たちからもらってくるか。立派な人たちだったからなぁ」

 一枚一枚めくっていき、〝先生〟は見つかった順に少年たちの頭に手を置いて名前を告げた。

「お前はエクトルだ。俺が最初に入った傭兵団で一番逞しかった人でな、いつもみんなを守ってくれたよ」

 とは「D―33521」の少年。

「お前はアガットだ。昔世話になった町の女性町長でな、凛とした態度で町をまとめていた人だったよ」

 とは「T―28814」の少女。

「お前はロイクだ。俺が生まれた村の警備隊の隊長でな、いつもみんなを引っ張ってくれる人だったぞ」

 とは「F―18995」の少年。

「お前はカリーヌだ。俺がここに来る前に住んでた町のシスターでな、とても優しい人だったよ」

 とは「S―53324」の少女。

「お前はジョスランだ。若い頃から付き合いのある学者でな、とにかく頭のいい人だったよ」

 とは「C―45766」の少年。

「お前はフェリシーだ。俺が子供の頃に面倒見てくれてた保育士でな、いつも明るくて素直な人だったよ」

 とは「V―22315」の少女。

 こうして全ての名前をつけ終わると、子供たちは与えられた名前を何度も何度も口の中で繰り返している。嬉しいのをそのまま表に出したり、我慢してるがにやけが止まらなかったり、感動しすぎて涙ぐんでいたり、反応は様々だ。

「苗字は……そうだな、ファミーユ。ファミーユだ。お前らはファミーユ兄弟だぞ。いいな?」

 少し考えてからいいことを思いついたというような笑みを浮かべて〝先生〟がそう言えば、姓までつけられ完全に「人」となれたことを喜ぶように子供たちの反応はますます深まった。すると、思い出したように「F―18995」――否、ロイクが〝先生〟の服の袖を引く。

「あの、じゃあ先生の名前は何て言うんですか?」

 最初に訊いていてもおかしくない質問であるが、ここに至るまではまだ警戒心と緊張、そして逃げ切れるだろうかという不安があったため、気にはなっていてもロイクたちはそれを訊けずにいた。さらに理由を挙げるなら、ナンバーで呼ばれ慣れていた彼らには欲しいという願いがあっても〝名前〟という概念が薄かったこともあるのだが。

 だが、これだけの距離を離れ、さらに名前を与えられるという奇跡に近い事態を受けてようやくその質問に至ったのだ。

「俺か? 俺はテランス・……ファミーユだ」

 反射のように答えかけ、少し迷ってから〝先生〟は笑顔で「ファミーユ」を名乗る。アガットとジョスランは少し訝しむ様子を見せたが、他のメンバーは怪しむよりも先に嬉しさを満面に浮かべた笑顔を咲かせた。

「先生もファミーユなの? じゃあ、私たち先生の子供?」
「せんせーはおとーさん?」

 カリーヌとフェリシーが〝先生〟の膝の上に乗って彼が身につけている軽装鎧の胸をぺちぺちと叩く。〝先生〟が「そうだな」と笑顔を見せれば、エクトルとロイクは笑顔を見合わせた。

「……ねえ先生。僕たちが兄弟って言ってたけど、順番は? 兄弟って順番があるんだよね?」
 無関心を装いながらも頬が緩むのを隠しきれていないジョスランが問いかければ、顎をさすりながら〝先生〟は視線を上に彷徨わせる。

「そうだなぁ、さっき名前をつけた順でよくないか? エクトル、アガット、ロイク、カリーヌ、ジョスラン、フェリシーだ」
「えっ、僕が『S―533』じゃない、えっと、カリーヌの弟なの? 僕の方が頭いいんだから僕がお兄ちゃんだよ」

 返答がよほど心外だったのか、ジョスランはぎりぎり被っていたポーカーフェイスを剥いで大きな声を出す。エクトル、アガット、ロイクに関しては、背や正確には定かでない年齢が上だと納得しているので反論には上がらない。悪気はないであろうがカリーヌを馬鹿扱いしていることをアガットが叱るよりも早く、当の本人が振り向いてジョスランに笑いかけた。

「うん、私はジョスランがお兄ちゃんでいいよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんいっぱいで嬉しいね、えっとフェリシー?」
「うん、カ……ねえちゃ!」

 元気よく返事をするものの名前を覚えきれないフェリシーは頭文字だけを口にする。笑顔で答えてから、カリーヌは根気よく自身の名前をフェリシーに教え始めた。その様子を見て、他のメンバーもすぐには覚えきれないらしくちらちらと兄弟たちを見ては名前を確認するような動作を見せる。

 眺めていた〝先生〟はそれもそうかと頭を掻くと、少女ふたりを下ろして荷袋を引き寄せ、中から服を一枚と、長方形の薄い箱を取り出した。そして足に装備していたナイフを鞘から抜くと服を適当に切り始め、数枚同じほどの大きさの布を切り出す。

 一体何をしているのだろう。子供たちが興味深そうに眺めていると、〝先生〟はライト代わりのガラス球をエクトルに渡した。手元を照らしておけ、と言われたエクトルは自身が陰にならないように気をつけつつ言いつけ通り〝先生〟の手元を照らす。