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若槻 風亜
若槻 風亜
novelistID. 40728
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【サンプル】六芒小隊

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 本物の草原と小さな林を抜け闇夜の中歩き通した一同は、施設の巨大な建物が半分ほどの大きさに見える場所にある荒野まで来てようやく足を止めた。小さな丘陵になっている陰に身を隠した瞬間、子供たちは倒れるように地面に両手と両膝をつく。

 体力のない「C―45766」の少年と「S―53324」の少女は“先生”に担がれぐったりとしており、比較的に体力があるため自身の足で歩いてきた「F―18995」、「D―33521」の少年と「T―28814」、「V―22315」の少女も全身が汗だくで息も切れ切れだ。

「よし、お前ら根性あるな。偉いぞ。お前らも頑張れたな」

 自身の足で歩いてきた四人と途中まで自身の足で歩いた二人を〝先生〟は分け隔てなく褒める。それは子供への気遣いではなく本音の言葉であった。施設からこの場所までの距離は非常に長く、〝先生〟には余裕であるが体力のない者なら大人でも音を上げる距離である。彼らの様子を見つつ休憩を考えていたのだが、存外に体力は持ち、「V―22315」の少女の足取りが危なくなってきたのでここで止まった。途中で足を止めてしまった二人も半分以上は自身で歩いてきている。少年たちの自由への渇望が本物であると〝先生〟が改めて感じたのはこの時であった。

「ほら、飲みな。量がないから少しずつな」

 〝先生〟は「C―45766」の少年と「S―53324」の少女を下ろして背中に負っていた荷物から細い水筒を取り出す。人工的に光は点けていないが、月や星の明りは強く、さらに長い間暗闇を歩いてきたため、〝先生〟も子供たちもやり取りに支障はきたさない。差し出された「T―28814」の少女は律儀に礼を述べて両手でそれを受け取ると、軽く水筒を揺らしてから近くで寝転がっている「V―22315」の少女を起こして先に飲ませた。二、三度喉を鳴らすと、「V―22315」はすぐに水筒から口を離す。

「ありがと、『T―28814』ちゃ」
「もういいか『V―22315』? じゃあ『D―33521』、そっちのふたりに」

 「V―22315」が笑顔で返してきた水筒を受け取ると、「T―28814」はまた口をつけずに隣にいた「D―33521」にそれを渡した。渡された「D―33521」も、隣で倒れている二人のうち手前にいた「C―45766」の少年を起こす。

「『C―45766』、ほら、次飲め」

 「C―45766」は少し迷った様子を見せた。視線がちらりと覗いたのは隣で倒れていた「S―53324」の少女。だが、彼女が「いいよ」と笑うと小さく頷いて水を煽る。そして「V―22315」と同様数口喉を鳴らすだけで水筒から口を離した。

「もーいい。『S―53324』にあげて」
「おう、分かった。『S―53324』、ほら」

 「C―45766」をまた地面に寝かせ、「D―33521」は「S―53324」の少女を抱き起こし同じように水を飲ませる。

 その様子を眺めていた〝先生〟は、感心したように顎をさすった。

「どうしました?」

 隣で周囲を見回していた「F―18995」の少年が〝先生〟の様子に気付いて見上げる。〝先生〟は問いかけに笑みを落とした。

「いや、大したもんだと思ってな。こんな状況でもちゃんと下の奴を気遣ってやれるんだもんな。お前はお前で周囲への警戒を怠ってないし」

 〝先生〟が感心したことを言葉に出すと、「F―18995」は前半に嬉しそうな笑みを、後半に微苦笑を浮かべる。

「俺たち正確な歳は知らないんですけど、あの二人は年上だって分かってるから俺たちに優しいんです。俺は……戦闘訓練で〝気を抜くな〟というのは叩き込まれてるから」

 〝戦闘訓練〟とやらで受けた痛みを思い出しているように、「F―18995」は腕をさすった。〝先生〟はまた顎に手を当てると、もう片方の手で「F―18995」の頭を撫でる。ただそれだけがよほど嬉しいのか、彼の顔はまた赤くなっているようだった。

「『F―18995』、ほら、お前も」
「あ、先にいいよ」
「私たちは後でいい。先に飲め」

 遠慮をするものの年長二人から目と雰囲気で押され、「F―18995」は結局素直に頷き水を煽る。前の三人よりも喉の鳴りが少ないが、気付いた〝先生〟は彼の意思を尊重し口は挟まずに済ませた。気にせず咎めそうな残りの二人は、次にどちらが飲むかを目で争っているため気付いていない様子だ。先を急ぎたい事柄で後を争うなど珍しい話だと〝先生〟は苦笑する。

「ジャンケンでもしろお前ら」

 妥協のための案を口にすれば、素直に従った「D―33521」と「T―28814」は合図もなく手を出し合った。そしてその一回で結果は出る。

「俺の勝ち。ほら、飲め」
「……不覚だ」

 まだ十に届くか届かぬかという歳の少女が放ったにしては難しい言葉が飛び出したかと思うと、「T―28814」は水筒に口をつけた。「F―18995」同様飲んだ量はあまり多くないが、渡された「D―33521」は素直に受け取り同じ程度喉を鳴らす。

「ありがとうございます先生」

 頭を下げて「D―33521」は両手で〝先生〟に水筒を返した。それを受け取って荷袋に入れ直してから、〝先生〟は腰の小さな袋から別の何かを取り出して視線を手元に落とす。

「――なあお前ら、名前ないのか?」

 続けて視線を少年たちに移すと、反射のように少年たちは首元に手をやった。今はないが、施設を出るまでそこには彼らのナンバーが振られたプレートが下げられていたのだ。判断のついた〝先生〟は肩を竦めて笑う。

「それじゃねぇって。ないなら、俺がやろうか?」

 そう言って〝先生〟が掲げたのは一冊の古い手帳だった。それが何を意味するのかは分からなかったが、少年たちは彼が口にした言葉に揃って目と口を大きく開けて顔を赤くする。そして