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「舞台裏の仲間たち」 68~69

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 「そうなの?、でも、別に問題は無いでしょう。
 時絵もひとり、あなたもひとり、どちらも自由な独身の大人だもの。
 で、どうなるの、そのプロポーズの先は」

 「私が断ってその話は終わりになるの、ちずる。
 私も座長のことは大好きだけど、
 それでも好きな順番で言えば座長は2番目。
 実はね、一番好きな男はちゃんと別にいるの。
 しかも私は、一生をかけてその男のことを愛しつづけるのよ。
 だから、私の心の中に、座長が入ってくる隙間なんか、
 これっぽっちもありません」

 「あらぁまぁ・・・・
 ものの見事に座長を切り捨てるわね、時絵も。
 病人が相手だというのに、まったくもって手加減もしないわね。
 座長、残念ながら駄目ですって、ご愁傷さま」

 「あのなぁ、お前たち・・・
 下手な芝居はいい加減でやめてくれ。
 もうその話はお互いについているんだろう、たぶん。
 しかし、気になるなぁ、時絵が一生をかけてもいいと言い切っている
 その、一番愛している男というのは」

 「私は30過ぎの男よりも、5歳の坊やの方が大好きなの。
 なんのために稼いでいると思っているの、
 家で可愛い5歳の坊やがいるからなのよ。
 だからもう、私の人生の中で男は必要が無いの。
 それに、けっこう忙しいのよ子育ては」
 
 「知らなかったぞ、5歳になる子供がいたのかよ」

 「悪かったわね、私が子供を産んでて。
 言っておきますが子供を産んだ女は、きわめて強くて無敵だわ。
 これ以上の痛い目も、怖いものもないし、
 本能で子育てに走り始めるんだもの、
 あっというまに逞しくもなるわ。
 でも座長に口説かれた時は、私もそれなりに女としてジンときました。
 それだけは、はっきり言って事実です。
 でも、どう頑張ってもこの今の現実には勝てないわ。
 ちずるだってまだ30だもの、子供だってできるわよ、
 あきらめることはありません。
 せっぱ詰まった時の方が、男は生存本能が高まるんだって・・・・
 種の保存のために、必死になると言う話は良く聞くわ。
 もしかしたら必死ゆえに環境が変わって、今度は
 うまくいくかもしれないし、
 あ・・・・やばいわねぇ・・・・
 私としたことが何と、はしたない事を口にしているのかしら、
 ずいぶんと過激なことを、平然と口走っているわ。
 私ったら」

 「うん、確かにそれもある。
 こんなときだからこそ、本気で考えたいと思った私も子供のことを。
 たしかに、可能性がゼロになった訳じゃないんだもの。
 でもね、私はいつでもOKなんだけど、肝心の座長は何も
 言ってくれないし、やっぱり帰ろうかな・・・・日立へ」

 「帰る事なんかないだろう、日立になんか」

 「一人で桐生にいても仕方がないし」

 「俺が居るだろう」

 「赤の他人のままだもの」

 「そんな・・・・
 ついさっきまで、桐生の戻ってくるって言ってただろう。
 俺のためにって、」

 「時絵は口説かれたけど、私は貴方から口説かれていないもの」

 「な、なにをいまさら・・・・」

 「駄目みたいだから、やっぱり日立に帰る。
 時絵、きりがないから、稽古場のみんなに会いに行こう。
 いつまでも待っても、煮え切らない男なんかには興味がないもの、
 みんなにお別れを言って、さっさと帰ります」

ちずるがまったくの演技で頬をふくらませ、つんと横をむいてしまいます。
すかさず近寄ってきた時絵が、ちずるにそっと耳打ちをします。

 (ねぇ、結構元気だよあの病人。それにまったく反省の色もないし。
 あんたが戻ってきたということで、すっかり有頂天に
 なっているみたい・・・・
 もうこのまま全部が旨く行くと安心して思っているわよ、あの顔は。
 簡単に納得するのも癪だから、もうすこし二人で
 最後の抵抗をしてみょうか。どうする、ちずるは・・・・)


 (そうよねぇ、あそこまでそれが当然みたいな顔をされてると、
 さすがにカチンとくるものがあるわ。
 男って図にのると後で暴走をする生きものだから、
 このあたりでガツンと、少しいじめておきましょう。
 時絵、適当にあおりたてて頂戴、よろしくね・・・・)

 密談を終えたちずると時絵が、ともに流し目で座長を見据えます。
 
 「そうね、それがいいわよ。
 上手く行くと思って御膳だてをしてあげたけど、
 座長が腰くだけじゃ仕方ないもんね。
 好きの一言もいわないし、口説いてもくれないんじゃ、
 面倒なんか見る必要はないわよね、ちずる。
 車で送るから、稽古場へ寄ってそれから駅まで行っても
 たぶん最終電車には間に合うと思うわ」

 「ちょ・・・・ちょっと待て。
 お願いだから待ってくれ。
 まったく、女優二人にタッグを組まれると、こちらも翻弄されっぱなしだ。
 わかった、わかったから、此処へ戻ってくれ。
 口説くから此処に座ってくれ、たのむ
 ちずる・・・」

 「あら、やっと口説いてくれるって、ちずる。
 ようやく覚悟を決めて、本気で口説いてくれそうな雰囲気に
 なってきたわね。
 じゃ、先に車にいるから、ゆっくりと口説かれて頂戴。
 いいわよ、時間なんかいくらかかっても、
 表でゆっくりと待っているから」

 「あら時絵は、消えちゃうの・・・・」

 「あたりまえじゃないの、聞いてなんかいられないわよ。
 人の恋路なんか、馬鹿らしくって」