それぞれの死
「両親が猛烈に反対しておりまして……。暴力団員は親族の墓には入れられないと……」
「確かに小山さんは暴力団に所属していたかもしれません。でも、死んだ人間ですよ。その罪ももうこの世にはないんですよ」
「でも、親族に猛反対されていて、私、どうしたらいいかわからなくって……」
電話口の向こうで古谷啓子は泣いていた。栄太郎は必死の説得を続ける。父の死を乗り越えたからこそ、説得しなければと思った。
「古谷さん、無縁仏がどんなものかご存知ですか? あそこに入ってしまうと、生きていた証さえも末梢されるようなものですよ」
「ううっ……」
古谷啓子は電話口で泣き続けていた。
「実は僕の父も死にましてね。もう少しで無縁仏に入れられるところでした。古谷さんに後悔だけはしてほしくないんです」
「わかりました。両親は呼ばずに、私だけで何とかします」
その言葉を聞いて、栄太郎は高橋係長に向かい親指を立てた。栄太郎の心の中で少しはすっきりとした感じだった。
栄太郎は人の死に対するイメージが確立されつつあった。確かに尊厳のない死も存在する。高山真治や横井啓太のように人から忘れ去られるような死もあった。しかも人の死に様も決して綺麗なものばかりではない。だが、関わる者としての想いが、今の栄太郎にはある。確かに葬儀とは崇高な儀式ではあるが、そこに関わるにはドロドロとした情念が渦巻いているのである。そこを浄化させるのも自分の役割だと栄太郎は認識していた。
「話もまとまったようだし、今夜あたりホッピーが飲みたいな」
高橋係長が栄太郎の方をチラッと見て言った。
「飲みたいですね。今夜は僕もホッピーで付き合いますよ」
栄太郎は爽やかな笑顔を、高橋係長に向けた。
(了)