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「舞台裏の仲間たち」 64~65

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レイコが此処まで来た経緯の説明を始めました。
ちずるは姿勢を崩すこともなく、背筋を伸ばしたまま、
時折頷きながら、静かに耳を傾けています。


 「順平さんが、茜のために
 黒光の脚本を書いてくれているそうですね。
 そのうえ、私のことでわざわざ群馬から、こんな遠くまで
 来てくださるなんて、お二人には、お手数ばかりをおかけしました。
 そうですか・・・・
 座長が病気になるとは、まったく予想もしていませんでした。
 あの人ったら、私は要りませんからというのに毎月、決まってきちんと
 生活費を送ってくれています。
 そんな無理がたたったのかしら、運命かしら・・・・
 あたしには何一つ、言ってこないで頑張っていたあの人が、少しの間に
 そんな風になっていたなんて。
 自由をあげたつもりなのに、運命は皮肉です。
 分かんないものね、人の行きかたなんか」


 開けはなされた窓をとおして、ちずるが遠くを見つめています。
女同士の方が話やすいだろうからと、途中から席を外した順平は綺麗に手入れが行き届いた庭の先端で、遠くに見える海原に目をこらしています。


 「時絵とは、もう保育園に行くころからのライバルでした。
 良い意味でも悪い意味でも、いつも二人で張りあっていたの。
 学校もずっと一緒、演劇も一緒、なにをするのも一緒で、
 座長を好きになったのも一緒です。
 でもね、・・・・
 性格も考え方もまったくといっていいほど、全部違うのよ。
 私たちは、いつも正反対の方向をお互いに目指しながら
 いつも背中合わせのままだった。
 そのくせいつも、双子のように一緒にいたの。
 私のそばに、いつも時絵が居たからこそ、勉強も頑張れた。
 時絵がいたからこそ、演劇にもあんなに夢中になれた」

 「双子のようなライバル関係ですか・・・・
 お互いに張りあってきたというよりも、支え合ってきたという風に
 聞こえましたが、気のせいですか?」

 順平が、縁側から声をかけます。
振りかえったちずるが、もうひとつの茶碗にお茶を注ぐと
それを持ち、立ちあがって縁側に出てきました。

 「順平くんは、繊細な表現にはきわめて敏感ですね。
 時絵は物静かで思慮深く、冷静で決して暴走などはしないタイプです。
 それでいて、物事には納得するまで打ち込むと言う、
 天性のエネルギーを持っています。
 よく皆さんから、演技の天才のように言われていますが、
 才能がきらめいているように見えるあの舞台は、
 実は数限りない試行錯誤から
 ひとつひとつを時絵が見つけ出して繋ぎ合わせ作りあげたものです。
 時絵は、際限なく努力が出来ると言う点で、すばらしい才能の持ち主です。
 努力をしないという点では、わたしのほうが常に『ずぼら』なままでした。
 感性だけで動いているというか、
 感じたままに行動をしてきたよいうのが、私の本音です。
 私が座長を取ったように思われていますが、
 実は、時絵が置いて行ってしまったのです・・・・」

 「三角関係にもなりかねない状況の中で、そのうちの当事者のひとりが、
 先に舞台を降りてしまったということですか。」