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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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 昨日は入院患者はなく、最後まで残っていたらしい看護婦に連絡を入れたが、まだ現れない。森警部補が現場検証に加わっている間に、村田巡査部長は若い刑事を伴って、付近の聞き込みを始めた。
 近所の家を数軒回ったが、これといった情報は得られなかった。
 そんな中、高科家の裏にあたる2階建て集合住宅8軒の中の1軒で、昨日はずっと家にいたという、話好きの女性にいき当たった。

「そうやなぁ、ま、ちょっと上がって、外は寒いでな」
「いえ、私らはここで」
 ふたりは扉の内側に入って、ドアを閉めた。
 女は、椅子を上がり框に持ってきて座った。
「足が痛いさかい、坐らしてもらいまっせ。
 裏の病院はな、そやなぁ、建ってから18年、になるかな。うちの下の子がぁ大学に入る時、でっさかい。うちらその頃は、こっから少し離れたとこに住んでたんです。子供らが独立して、主人も亡くなってひとりんなると、一軒家では広すぎますわな。そんで3年前に引っ越してきてな。子供らは結婚したら、ほとんど帰ってけぇへん。孫が時々遊びに来てくれますけど、ちっこい頃はそりゃぁかわいい子でなぁ、最近は憎たらし」

「奥さん、高科さんの話」
「あ? すんまへん・・・そうや、ピアノの音がしょっちゅうしてましたな。下手で聞いてられへん。なんや娘さんが教えてはったんですか、時々はええ曲弾いてはりましたなぁ・・・それでぇ、昨日の4時ごろにも弾いてはりましたわ」
「ほんまですか!? 午後、4時ですか?」
「はいな、いつも弾いてはる、きれいな曲」
「どんな?」
「ほれ、有名な、映画で弾いてた」
「なんちゅう曲か分かりませんか? あるいは何の映画やったか」
「あれはなぁ、『ある愛の詩』やったかなぁ、ちょっと待ってや・・・『愛と死を見つめて』ちゃうなぁ・・・愛、あいぃ忘れた」
「いつも弾いてはるんですね? じゃ、本人に聞きますわ」
「初めからそうゆうてぇな」
「他に何か、大きな声が聞こえたとか、大きな音がしたとかは?」
「さあ・・・」

「見知らんもんをやたらに家に入れるんは、やめときや」
と言い残してその家を辞去すると、足早に高科家に戻った。
 張られたロープの周りには、数人の人々が、おそらくは報道関係者が残っているだけだった。