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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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 冴子はひとりで電車を乗り継ぎ、富士急行線の富士山駅に到着すると、タクシーで叔母の家を訪ねた。
 3月、道端には、ここそこに茶色くなった雪が積み上げられていた。
 雄々しく両翼を広げた冠雪の富士は美しく、身震いするほどに魅力的な姿を見せつけている。

 農家風の家に訪いを入れると、伯母と思われる人物が割烹着姿で出てきた。
「高科冴子です」と告げると、体をのけぞらせて吟味するかのように、上から下まで何度も視線をはしらせていたが、「あの、ちっこかった冴子ちゃんずら〜、えらいおっきゅうなったこってぇ。まっ、上がれや」と、腕をとられた。

 座敷にある掘りごたつの炭を掘り起こしていた伯母に、「ささっ、温まってくれ」とそこに座らされて、干し柿を勧められた。
「保さんは、気の毒んことなったな。冴子ちゃんも大変やったろう。犯人が捕まったって、やれ安心なったずら」
「母のことが知りたくて、来たんです。刑事さんから、ここのこと教えてもらいました。伯母さんがいるなんて、ちっとも知らなくて」
「遠いとこ、よう来なすった。あんたのおかぁちゃん、葉子はな、あんたを産んでから、ノイローゼ、ちっか。ち―っとも自分に似とらんあんたのことで、悩んでおった様子だったわ」

「うちが生まれた時のことは?」
「そうだなぁ、たもっしゃんは、種がなかったちゅんこって、体外受精ゆうんかや、そんでもって生まれたんが、冴子ちゃんずら。たもっしゃんは自分のこともあって、不妊治療に力入れるようなったんだと、聞いとる。
 けぇらしかったでぇな、あんた。んだども、でぇにも似とらんで、保育所行っても皆そぉんな話するだで、辛かったんだろうに。保育所に連れてった後、ギャードレールに車ぶつけてしもうて、なぁ・・・」
 伯母は、割烹着の裾を目に押し当てた。
「冴子ちゃんが生まれた時ンは、そりゃ皆して喜んだって。綺麗ェなったずら。誰に似よったかよ」

 その後、近々結婚することなどを伝えて辞去した。
 母の写真を見せてほしい、とは言えなかった。見てしまったら辛さが一層募る、と思ったからである。
 その日は希のアパートに戻り、すべてを片づけてから翌日、大阪に帰った。