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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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 希は冴子の弾くノクターンを聴きながら、笑みを浮かべたまま静かに息を引き取っていた。
 約束通り柩の中に、希が父から奪った書類と希が持っていた写真を入れた。
 希が父から奪った書類は、滋に預かってもらっていた。
 ただ1枚、両親と希が楽しげに写っている写真だけは、焼いてしまうことが出来なかった。それを見る限り、父母は希を愛していたことを感じる。希は高校生だろうか、普段着姿の3人である。
 その希に冴子自身を重ねてみた。
 そして滋とふたりで、希を見送った。

 拾骨するはずの骨は、形をほとんど残していなかった。骨まで癌細胞に侵され、ボロボロになっていたのか。
 痛ましい気持ちで、いっぱいだった。
 もっと早く、希の存在を知っていたかった。事件が起こる前に。
 もっと一緒にいれば、そうすれば希に、生きることの幸せ、を感じてもらえたろうに。

 冴子は、自分の数年先のことを思った。
 自分には滋さんがいる。そばに付いていてくれる人がいれば、何も怖くない。
 自分の運命を、そのまま受け入れていこう、と思う。
 ま、しゃあないわ、というあきらめの境地が、希と共に過ごすうちに芽生えて来ていたのだ。
 存在してはいけないのだろうが、生まれてきたからには、幸せになる権利はある。