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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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 その日は、冴子は滋と共に、大阪に帰って行った。
 希と滋の前ではまだ深く考える余裕がなく、普段どうりに取り繕っていたが、家に帰ってひとりになると、その意味するところの重大さがどっと押し寄せてきた。
 自分の出生の秘密と、これから起こるであろう事柄に、恐れと悲しみと辛さが襲いかかり、狂わんばかりに泣き続けた。自分の力では、いや誰の力によっても、どうすることも出来ないのだから。
 母が「どうしたん?」と問いかけても、答えられるものではない。
 滋は毎夜メールをくれるが、気丈な言葉を返すだけだった。

 1週間すると、恐れと悲しみは怒りへと変貌し、怒りは父への憎しみへと変わっていった。
 そうしてようやく、希が父を殺した気持ちを理解し、共感することが出来るようになった。
 希をひとりで死なせてはいけない、ということに気付いた。

 山梨から帰宅して10日後、今度はしばらく滞在するつもりで、ひとりで希のアパートを訪れた。
 希の最後を看取るつもりである。
 希は冴子の存在を喜んだ。そして、すべてをまかせることにした。
 冴子は、自宅のグランドピアノで演奏した、ショパンの曲数曲を録音してきており、希に聴かせた。

「冴子ちゃんの演奏は、おねぇちゃんの演奏と全く同じ。それは、私自身の演奏でもあるのね・・・哀しみに、満ちている」
 希は、録音したピアノ曲を聴きながら、閉じたまなじりをいつも濡らしていた。