小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

INDEX|25ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

 希は目を開いて、冴子に顔を向けた。
「冴子ちゃん、それは私が言う事。ドナーとして生まれて、生かされて、生きてるのがずっと怖かった。ねぇちゃんが死んでも両親にとっては、私はねぇちゃんの代わりでしかなかった。今まで、恋をしたこともない。なぜ生まれてきたんやろ、っていつも考えてた」
 希は微笑んで言った。
「写真がな、その下にある。お父ちゃんとお母ちゃん。ねぇちゃんのは、お母ちゃんが処分してしまったみたい。けど冴子ちゃんは、ねぇちゃんそのままや」

 冴子は、小さな本棚に立てられているフォトブックを取り出して、広げた。滋も肩越しに覗き込んでくる。
「サエは、母親似、やな」
「笑った時の顔は、お父ちゃんに似てると思います」
と、希は冴子を見つめて言った。

 母は黒いロングドレスを着て椅子に座り、ハープの弦に両手を添わせて演奏している姿。
 父はチェロを構えて、やはり何かを演奏している、弓を弦に当てている姿。
 それと、希がピアノの前に座っている姿と3人が一緒に演奏しているところ。
 他に数枚、家の外でバーベキューをしている写真。
 仲睦まじい様子がしのばれる。
「ここに写ってるんは、希さん? それとも歌音さん?」
「その頃はねぇちゃんはもういない。両親の私を見る眼差しは、ねぇちゃんを見てる時の眼差しでした」

 希は目を閉じ、再び沈黙があたりを支配した。
 しばらくして沈黙を破った声は、か細く沈んでいた。
「ねぇちゃんは、ショパンの曲が好きでよく弾いていました。特に、ノクターン第2番オーパス9の2。それで私もそれが得意で、よく弾いていました」
「私もその曲、しょっちゅう弾いてます」