『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)
コンコン、とドアを小さくノックする音。
「ごめんください、大迫、希さんのお宅でしょうか。高科冴子です」
ドアノブを回して、少しドアを押し開いて中の様子をうかがっている気配がし、希は、来てくれたんだ、と安堵した。
「どうぞ、そのまま上がってください」
冴子は滋とともに上がり込んで、ベッドの上に起き上がろうとしている希の横に立った。
希は滋を見て、冴子に非難の眼差しを向けた。冴子はすぐに滋を紹介した。
「希さんですね、高科冴子です。こちらの小塚滋さんは、私の婚約者です。滋さんにも知っておいてほしい、と思ったもんですから」
希の眼差しが和らいだ。そして軽くうなずく。
「そこの引出しをあけて、中に入っている書類を取り出してください」
冴子は希を見つめたまま、言われたとおりにした。
黄ばんだ紙からまだ新しい紙まで、書類は5センチほどの厚みがあった。
「高科先生が研究されていた、クローンに関する記録です。検体は私。そしておそらく、あなた」
希と冴子は双子だ、というような話が出てきても、覚悟を決めていた冴子であるが、クローン、という言葉がいきなり出てきたことに打ちのめされた。
「クローン!?」と小さくつぶやくと、話の先を促して黙って聞くことに努めようとした。
心臓は早鐘を打ち始めている。
滋は床の上にあぐらをかくと冴子から書類を受け取り、1枚ずつめくっていった。冴子はその隣に座った。
「知っておられる事を、すべてお話しいただけますか。滋さんは、クローンに関することには少し詳しいんです」
声は上ずっていた。
作品名:『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン) 作家名:健忘真実