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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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「ねぇ、クローン人間、て、将来誕生するかなぁ」
「技術的には可能やろけど、細胞の癌化なんかの副作用の克服が難しいそうや。それにぃ良識ある人類は、そんなこと許さへんやろ。自由に命を作り出せるようなったら、悪用する奴が必ず現れよる」
「生殖医療だけとちごて、科学の進歩はどこまでいくんやろね」
「人間には制御しきれんとこまで、きてるかもな。そのまま突っ走ってしもて、好奇心と欲にブレーキがかけられんようになってしもてる・・・もぅお、フィクションだけの世界とちゃうで」

 車は住宅街を抜け、ヘアピンカーブの続く道を上っていく。
 クリスマス前ということもあって、対向車はほとんどない。
 展望台から、海へと広がる街々の、電飾によるイルミネーションを見ようとする者たちの車が、前にも後ろにも続いていた。
 まだ4時過ぎだが、すでに夜の帳が下り初めている。同時に冷気が強まってきた。
 滋は冴子をチラ、と見てから暖房を強くした。
 今流れている、フジコ・ヘミングが奏でるピアノ曲は、冴子の好みである。
 冴子はそれに聴き入っているかのように黙ったまま、目を閉じてシートにもたれていた。実のところは、車酔いしていたのである。いつものことだがそれによって、車の中では会話は弾まなくなる。


「♪パンパ〜カパンパ〜カパッカパッカパン〜〜、長らくのご乗車ありがとうございました。まもなくぅ〜六甲山ホテルに到着いたします」
 車は、すでに半分方埋まっている駐車場に滑り込んだ。
「どや、気分は」
「ウ ン、目が回りそうやったわ、ああぁしんど」
「外の空気吸うてから入ろか、まだ食事には早いし。ぬくいかっこしときや。俺、ちょっと確認だけしてくるさかい・・・そや、荷物も預けとくわ」

 滋はダウンを羽織ってふたりのバッグを手にすると、走るようにしてホテルの玄関に入って行った。冴子は、その間にゆっくりとした動作で滋が手渡してくれたコートに腕を通してから、車を出た。

 喧騒の市街地からわずか30分ほどで到着できる、標高800メートル近いここには静寂が広がり、空気は身を切るほどに冷たく、澄んでいる。冷気によって身が引き締まり心がしゃきっ、とするようなのだが、まだ気分が悪くて、のろのろと展望台の方へ向かった。