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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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 阪急六甲駅の改札口横にある、コンビニの中。
 コートを腕にかけ、雑誌に視線を落としながらも冴子は、時々顔を上げて通りに目をやると店内の時計に視線をはしらせて、再び雑誌に戻るのであった。
 何度目かに顔を上げた時、赤いマーチが止まっているのに気づいてあわてて雑誌を元の場所に戻すと、足元に置いていたバッグを取り上げて出口に急いだ。
 自動扉が開くのを待つ間ももどかしく、足踏みをする。しかし、落ち着いた足取りを取り戻すと、顔に笑みをたたえてゆっくりと近づいて行った。
 助手席の背もたれに右手をかけて駅の周辺を窺っていた小塚滋は、冴子の姿を認めると外に飛び出し、手を上げて助手席側に回った。

「ごめん、ごめん。渋滞しとったんや。だいぶ待っとったんか」
と言いながら、冴子の持つバッグとコートを受け取って後部座席に放り込むと、冴子の背中に手を当て、もう一方の手で助手席のドアを支えて坐らせてから、そっと閉めた。

 運転席に着いて発進させた滋に、冴子は顔を向けて微笑んだ。
「山中教授のインタビュー、うまくいったみたいやね」
「先生は、ノーベル賞が決まってから一段と忙しなったから、アポ取るんに苦労したけど、待った甲斐あったわ。おかげで貴重な日がつぶれてしもたけどな」
 滋は冴子に顔を向けた。
「誕生日、おめでとう」
「ウフッ、ありがとう」
 嬉しさに、ちょっぴり恥ずかしさを感じて、冴子は肩をすくめてからシートにもたれた。

 小塚滋は、大手新聞社が発行している子供向け科学雑誌の編集に携わっている。冴子の誕生日をふたりで過ごすために早くから休暇届けを出していたのだが、スウェーデンから戻ったばかりの山中教授から、
「この時間やったらちょっとだけやけど、空けれるけど」
と、急に連絡が入ったのである。

 山中教授が子どもの頃過ごした東大阪市の家は、滋の母の実家近くにあり、家族どうしのつきあいがあったことから親しくなっていた。
 京都大学のiPS細胞研究所には頻繁に訪れており、子供向けに分かりやすい記事を書いてきて、今も続いている。
 今回の記事は、ノーベル賞授賞式とその後のレセプションに関することや、子どもたちへのメッセージを含めた話をまとめるつもりでいる。