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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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 山梨大学付属病院で希は生まれ、その時に担当した医師が高科保だった。どういういきさつかは知らないが、当時再生医療を研究していたという高科医師は、姉の担当医でもあった。
 ドナーでもある希は年に数回、高科医師の診察を受けていた。それは希が誕生してから、そして姉の死後も続き、先月にも受けていたのである。


 高科医師は大阪から山梨までやって来て、病院ではなく、誰もいない研究室で診察をする。
 先月のこと、血液を採って、顕微鏡を覗いていた高科医師は、「失敗したな」と、ぼそっとつぶやいた。そしてあわてて希を振り返ったのだ。まずいことを口走った、というふうに。
「どういうことですか?」と聞き返した。
「いや、赤血球の奇形型が異常なほど増えている」

 希は、全身に癌細胞がまん延していた。それは半年前の検査の時に初めて分かったのだが、その進行が異常に速い。
「いつ死んでもおかしくない状態だ」と、高科医師は伝えた。
「君は体外受精で生まれたことは、聞いているね」
「はい、母から聞かされていました。でも、技術的に安全性は実証されていますよね」
「君の場合は、特殊なんだ」
「どういう」
「うっ・・・まぁ、今だから言っておこうか。だが、口外しないことを約束して欲しい。できるか?」
「はい、約束します」

 それで、恐るべき言葉が高科医師の口から発せられた。
「君は・・・クローン体なんだ」
 希はその意味することが、すぐには分からなかった。
 高科医師は続けた。
「君の姉さん、歌音君への臓器移植を成功させるために、君の母親の卵子の核を除去して、歌音君の髄液から分離した細胞の核を移植し融合させ、その結果誕生したのが君だ」
「そんなこと・・・クローン人間って、この世に存在しないはずなのでは? ずっと前に話題になった羊のドリーが、初めての成功例だと。それより何年も前になる」
「そう、私が最初の成功者だ。副作用がないと分かれば、いずれは世間に公表するつもりだった。だが細胞の癌化、という課題が残っている限り、君という成功例は闇の中だ。研究者としては、結果の最後までを見届けていかなければならない、と思っている。それに・・・いや、それだけだ」