『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)
希の高科医師に対する殺意が、その時から徐々に芽生え、次第に膨らんでいった。
私は、姉のドナーになるために生まれてきただけでなく、研究のための試験体にすぎなかったの?
私は、ホントの幸せなんて感じたことがない。幸せな振りをしていただけ、母さんに愛されたいがために。
恋すらしたことがない。癌細胞が全身をむしばんでいき、近いうちに死んでいくだけ。
高科先生は、恐ろしいことを研究してきたのだ。よもやクローン人間に副作用がなかったとしても、命を異常な状態で、作り出してはいけない。
この悲しみ、恐怖を味わうのは、私ひとりで十分だ。
高科先生を、このまま存在させてはいけない。
そして、クローン人間を研究し生み出していたという事実も、世に知らしめてはいけない。
そう考えた希は、高科医師に来訪の意思を伝えた。
「私が誕生するまでの経過を教えてほしい」
と、お願いしたのだ。
電話口の向こうで、なかなか了承しなかった高科医師に対して、
「私には、クローンに関する研究の経過を知る権利がある」
希は強く言い放った。
作品名:『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン) 作家名:健忘真実