『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)
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大迫希(のぞみ)は、テレビ報道番組を毎日熱心に見ていたが、大阪府池田市の産科医刺殺事件の現場に、犯人に繋がる証拠が全く残っていなかった、という報道に首を傾げた。
そこで急いで週刊誌を買って来て、パラパラとページをめくって記事を捜した。
捜し当てた記事をじっくり読もうと、テーブルに載っている湯呑茶碗に手を伸ばしたが、そこに載っている写真を見て、茶碗を引っ繰り返してしまった。
『不妊治療で輝かしい実績』と大きく書かれた見出しの下に、掲載されている写真。告別式の様子と、高科保と共に、仲睦ましく微笑んでいる女性が写っている。
説明には、[5年前、娘の冴子さんと幸せの時間]とある。制服姿の冴子は卒業証書を持っている。
希は急いでこぼしたお茶を拭き取ると、目を近づけてじっくりと見入った。
冴子の容姿は、10年前の高校卒業時の希と全く同じだった。
記事によると、希は冴子より5歳年上となる。告別式で写っている冴子の沈痛な顔は、希が元気なころと瓜二つだ。
希は過去の出来事や、母から聞かされていたことを思い出そうとした。
作品名:『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン) 作家名:健忘真実