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『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)

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 犯人の目星は全くつかず、捜査は行き詰まっていた。
 誰かと会っていたことは確かなのだが、その人物の遺留品が何も見つからない、というのも不思議である。唯一の手掛かりは、果物ナイフの血痕なのだが。
 高科保が持っている携帯電話の通信記録からも当たっているが、不妊治療に関わった人たちなのか、遠方に住む人たちとの通信が多い。彼らのアリバイ調査に、苦慮しているところである。
 そんな折、森主任が山梨県警に依頼していた高科保についての情報がもたらされ、再び本庁の会議室に集まった。
 医事班からもひとり、参加してもらっている。

「まず申し上げておきますが、高科冴子の伯母に当たる人物のDNAは、冴子と血縁関係は全く示されませんでした。ところが、旧姓長岡葉子が、体外受精をして冴子を生んだんは事実であります。
 そこで考えられるんは、他人の受精卵を着床させたということです。ただ当時のカルテを調べてもらいましたけど、その事実は見当たりませんでした、ということで」
 森主任は見ていた書類を置いて、顔を上げた。
「主任、赤ちゃん取り違え、とかは?」
「当時、その産科での出産はひとりだけで、取り違えようがない、と」

「う〜ん」と唸っている一同を見回している森主任に、若い刑事が言った。
「高科保の残してたファイルのタイトルは、『未受精卵の核除去による細胞の融合』とあります。なんやよう分からんけど、今主任が言いはったことと関係してるようですね」
「確かに。で、考えられることは、高科保は、クローン技術を持ってたのではないかと」
「ち、ちょっと待ってぇな。突飛なこと、言わんといてや。高科冴子はクローン人間ちゅうことかいな。まだ人間では実現しとらんし、倫理的にも許されてへんことやで!」
 森主任が口から出した『クローン』という言葉に、西村係長の声は裏返っていた。

 医事班の係官が答えた。
「『未受精卵の核除去による細胞の融合』ね。それはまさしく、クローンに関する研究ですよ」
 若い刑事が、パソコンを睨みすえたまま言った。
「ええ〜っと、今調べてるんすけど、哺乳類でクローンが初めて成功したんは、1996年7月5日に誕生した、ドリーと名付けられた羊ですわ」
「冴子は1990年に生まれてますさかい、それより6年も前に、成功してた、ゆうことになりまっせ」
 別の刑事が発した言葉に皆は、まさか冴子がクローンということはないやろ、という表情で顔を見合わせた。