『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン)
村田刑事は山梨県警の協力を得て高科家の戸籍を調べると、冴子の不在証明(アリバイ)にも取りかかった。
冴子の生みの母、旧姓長岡葉子は山梨県出身で、山梨大学医学部の再生医療研究室で、高科保の助手をしていたが、1985年に高科氏と結婚。1990年12月15日に、山梨大学付属病院で冴子を出産している。その3年後、自ら運転する車をガードレールにぶつけて死亡。わき見運転による前方不注意となっていた。
高科保は冴子を連れて1994年に池田市に転入し、今の場所に『高科産科医院』を開院している。
葉子の姉が現在も山梨県に在住していることが分かり、念のために協力を得て口内粘膜を採取し、DNA鑑定をしてもらっている。結果はまだ出ていない。
ただ、葉子の死後姉たちの家族・親族は、高科家とは絶縁状態にある。高科保から絶縁を言い渡されたのである。理由が分からず、問うても答えてもらえなかった、という。
そして、引っ越し先も分からず、今回の報道によって初めて、大阪にいたのだと知った。
不妊治療によって日本全国で有名になっている、と伝えると、全く知らなかった、と言って驚いていた。
というようなことが、山梨県警の近藤刑事から受けた報告である。
一方、池田駅と阪急六甲駅の監視カメラの映像を解析してもらった結果、冴子の足取りは確実となった。阪急六甲駅のコンビニの防犯カメラにも、3時13分頃に入店している、おぼろげに映っている姿を冴子と断定した。
「デカ長、高科冴子は双子やった、ちゅうことも? そやないと、ナイフに付いてた血痕の説明がつきません」
「双子やったら、DNAも指紋も同じなんか?」
「さあ? 瞬間移動が出来るんかもしれませんね」
「それとも分身か、か・・・あほか、マンガちゃうやろ」
村田刑事は若い刑事たちの冗談につきあって、少しの間息抜きをするのだった。
作品名:『愛情物語』 ノクターン第2番 op.9-2 (ショパン) 作家名:健忘真実