それから【完結】
それから僕は有名私立高校へ進学し、
その私立大学の医学部へ推薦してもらった。
今はその大学病院に勤務している。
循環器内科の権威の先生に師事し
最先端の心臓カテーテル術を学んだ。
そして3週間前の先月末に、
循環器内科部長から来年設立される
循環器内科研究所の研究員として推薦してもらった。
来月の終わりには準備に向けてアメリカに行く。
大学時代からの友人や同僚、
もちろん父も母も喜んでくれた。
亡くなった祖父も喜んでいることだろう。
僕は自ら、まだまだ進展の激しい循環器内科の
専門医の道を選んだのだから、当然喜んだ。
ただ、何かをやり残しているような気持ちでいた。
それが、彼女のことだとわかってはいた。
中学生だったあの頃の、
彼女からの手紙を待つ数日よりも、
あっという間に過ぎていった何年間の間にも、
もしあのライブのあと彼女に手紙を出していたら
どうなっていたんだろうとか、
思い切って彼女の家に行ったみたらどうなるんだろうとか、
考えることは良くあった。
それでも僕は行動には移さなかった。
なぜなら、彼女はあの日ライブに来なかった。
なにか理由があって急に来られなくなったのなら
彼女はきっと手紙を書いてきたはずで、
彼女からその後手紙が届くことはなかった。
それが彼女の答えだったのだから、
受け止めるべきだと思っていた。
十年以上も経った今となっては、
好きだとかいう気持ちでは無いけれど、
僕がこうして僕自身を取り戻せたのは、
彼女のお陰なんだということは確かなのだ。
そして今の僕があるのも、彼女のお陰であるといってもいい。
長く離れることになる自分の部屋を片付けているとき、
彼女からの手紙をしまったお菓子の空き缶を見つけた。
蓋を開けるのはどれくらいぶりだっただろうか。
その中に彼女から最後にもらった
とても美しい詩のような手紙を見つけた。
『たいせつな気持ちを伝えたいの。』
という一行に目を留めた。
「彼女に会いに行こう」