それから【完結】
僕は覚悟していた。
本当の自分を知った彼女に嫌われてしまうかもしれないことを。
しかし、彼女からの返事はすぐに届いた。
彼女は、僕が本当のことを手紙に書いたとき、
僕はもう以前の僕とは違うんじゃないかと書いてくれた。
変わらなくちゃいけないことに気がついた僕は、
もう変わり始めたんだと書いてくれた。
そして、彼女は僕のためにと、新しいアルバムの曲の訳詞を添えてくれた。
♪僕が世界を変えてやる
それは僕が変わること
僕が僕を変えること
それは世界を変えること♪
この曲が彼女のお気に入りだと。
僕はあのバンドの曲を大音量でかけながら、
何度も彼女からの手紙を読み返した。
彼女に本当の自分を打ち明けてから、
まるで世界が変わったようだった。
中2の冬、中3の春はただただ楽しい毎日だった。
部活にも出席してないし、クラスの人気者にもなってない、
家でも相変わらず親の顔色を気にしている。
それでも、言いたいことは言うようになったし
なんだか周りの人たちも変わったような気がした。
そんな僕の状況を彼女への手紙に書くのが楽しみだった。
彼女は自分のことのように喜んでくれた。
彼女への手紙を書くとき、彼女からの手紙を読むときは
決まってあのバンドの曲をかけた。
僕は彼女の望みを叶えてあげたいと思った。
いや、本当は僕が彼女に会いたかったのだけど、
折角ならあのバンドのライブに一緒に行きたいと思った。
そのころの僕は特にお金を使うこともなかったので
毎年お年玉を貯金箱にためていた。
祖父は特に僕に甘く、お年玉をたくさんくれたものだった。
僕は彼女の願いを叶えようと決めた。
夏休みの野外ライブのチケットを僕は彼女に内緒で手に入れていた。
僕は有名私立高校の進学コースを受験することにしていた。
僕は親の敷いたレールを進む中に僕なりの能動性を持って
医者になることを目標にした。
そのことを彼女への手紙に書いたとき、
彼女は心から応援してくれると言ってくれた。
彼女は僕の受験を心配して、邪魔をしてはいけないんじゃないかと、
受験が終わるまでしばらく文通を控えたほうがいいのかと、
書いた手紙を送ってきた。
そして1学期の終業式の日にライブのチケットを手紙に一緒に入れて送った。
彼女とあのバンドのライブを見て、
受験頑張るから必ず来て欲しいと手紙に書いた。