それから【完結】
「もう、13年前になるんですよ。
あの子が中学校3年生の夏でした。
7月に入った頃から病状が悪化していたんですが、
8月4日の夕方に眠るように逝きました」
そのあと彼女の母親と一体どんな会話をしたのだろうか、
僕は彼女が見ていた夕日を見たくて、
彼女の入院していた病院の場所を聞いた。
どれくらい時間が経ったのかもわからなかった。
僕は病院の駐車場で彼女から届いた
最後の手紙を胸ポケットから取り出した。
『すてきなプレゼントをありがとう。
きょうの午後に届いたので、すぐ返事を書いています。
でも、ポストに入れるのは明日になってしまうわ。
しかたないのだけど、少しでも早く伝えたいの。
たいせつな気持ちを伝えたいの。
あさ、目を覚ますのが楽しみなの。
りんかくのはっきりした太陽が、
がんばれって言ってくれるわ。
とてもやさしいあなたのようで、
うれしくて涙が出ちゃうわ。
さいごの光がもうすぐ沈むわ。
よるを怖がるのはもう止めたの。
うまれてくる光が美しいのは、
ながい夜があるからなんだもの。
らいぶの日、必ず会場へ行くわ。』
僕は今まで何度もこの手紙を読み返していたけど、
初めて涙が出た。
そのとき、僕の頬を風が撫でた。
あの日、彼女は来てたんだと思った、
あのライブ会場に来ていたんだ。
あの日も僕の涙を彼女は拭ってくれたんだと思った。
彼女が好きになった夕日が沈んでゆく。
とてもきれいだ。
そして、僕の車のステレオからは、
あの日アンコールでも演奏されなかった
彼女と僕のお気に入りの曲が流れていた。
♪僕が世界を変えてやる
それは僕が変わること
僕が僕を変えること
それは世界を変えること♪
〈了〉