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桃井みりお
桃井みりお
novelistID. 44422
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それから【完結】

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 女性は彼女の母親だった。

 昼下がりの庭には小さな花がたくさん咲いていて、
そのどれもが生き生きと輝いている。
そういったことに無関心な僕の目にも
とても手入れの行き届いた庭だと判った。

 その庭に目をやっているとき、玄関のドアが開き
落ち着きのある中年女性が現れた。

 軽く会釈をした僕は、思い出したように名前を言った。
僕の名前を聞くと少し驚いた様子だったが、
快く招き入れてくれた。
部屋の中はとても静かで、
空気が止まっているようだった。

 庭と同様室内も掃除が行き届いていて、
なんとなく生活のにおいがしない感じがした。
時間も止まっているようだった。

 彼女の母親は、なにも言わずにお茶を淹れていた。
沈黙のなかに茶器のたてる音だけがしていた。

「あなたには、謝らなければならないのよ」
お茶の入った湯飲みを僕の前に置きながら、
彼女の母親は突然言った。

 僕はお茶に伸ばしかけた手を止めた。

「あら、やだ。お礼を言うのが先ですね。
 あの子に会いにきてくださったのでしょう?」

 そういいながら湯のみを僕のほうへすっと差し出した。

「いえ、突然すみません」と僕は答えたが
少しのどが詰まってしまい小さな声しか出せなかった。
僕は咳払いをした。

 僕が湯飲みを手に取り、口をつけると、
「ごめんなさいね、あの子はいないんです」
と、彼女の母親も静かな声で言った。

「そうですか、そういうことも考えていました」
と僕が言いかけたところに、

「あの子は、亡くなったんです」と、
さらに小さな声で言った。

「えっ?」と聞き返すと、

「あなたと文通をしてたのは入院中で、
 私が病室に行くと『手紙は来てなかったか?』
 って毎日聞くんですよ。
 自分の手紙が書けたときには、
 病室に行った途端に『今すぐ手紙を出して来て』って、
 本当に楽しみにしてたんですよ」

 彼女は亡くなっていた。

 僕は失礼を承知で、

「いつ、いつ彼女は…」

と訊いた。

作品名:それから【完結】 作家名:桃井みりお