「舞台裏の仲間たち」 59
市街地を北へ抜けた貞園のBMWは、小高い丘に向かって進路をとります。
ほどなくすると前方には、赤いレンガの塀にぐるりと囲まれた伝統的な
四合院建築スタイルの大きな屋敷が近づいてきました。
台北に残る建物の中でも、最も保存状態のよいという古民家のひとつで、
竣工されたのは、清の時代で1783年に建てられた豪邸です。
200年以上も昔に建てられたというのに、外観は信じられないほどの
美しさをいまだに保っています。
四合院建築とは、中庭を中心に4棟の建物を対称的に配置をした
明や清の時代の福建省の典型的な建築様式です。
ツバメの尻尾に例えられるそりかえった屋根は、赤い瓦を幾重にも
重ねてあり、微妙なカーブが落ち着いた雰囲気を演出しています。
建築のスタイルだけでなく、建材も中国大陸産を採用しているのが
この家の持っている大きな特徴のひとつです。
そのほとんどを海を越えた福建省から名産の杉を取り寄せています。
高温多湿の台湾では鉄釘は錆びやすいために、
ほとんどの木材が、竹や木製の釘で留められています。
壁は赤レンガと土レンガなどに、粘土と石灰を塗って仕上げられています。
庭の石畳に使われている石は紅普石と呼ばれ、中国大陸からの渡航船の船底に重石として置かれ、バランスをとるために使われたものだそうです。
苔が生えず、滑りにくい点が石畳としてぴったりです。
「おいおい、貞園、・・・・凄い豪邸だ。」
「遠慮しないで、誰も居ないし。
築200年の、ただの大きすぎるタイムカプセルみたいなものだから」
どっしりとした門をくぐると、
美しく整えられた庭と半円形の池が目に入いってきました。
この池は優雅に「月眉池」と呼ばれています。
半月のように美しく整えられた眉型の池の様子に、
さすがに豪邸は池の名前までもが優雅だと、妙なところで納得を
してしまいました。
また美しいだけではなく、防衛や防火、魚の養殖、邸内の温度調節などと、
さまざまな用途にも使われています。
庭に植えられている花々や草木も、実はほとんどが薬草でした。
美しさと同時に、薬効までも得ているとは住人の知恵ぶりに脱帽です。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 59 作家名:落合順平