「舞台裏の仲間たち」 59
金型工場での会議とひそひそ話は、2時間近くを要しました。
事態は日を追うごとに深刻となり、今後の対応を検討しましたが
妙案などはありません。この先の苦戦を予測させるような暗い空気のまま、
ただその深刻さだけを確認しあうという、実りのすくない打ち合わせになってしまいました。
あいかわらず大汗を流している亀田社長とは、そのまま会議室で別れました。
同席した部品会社の担当者とは玄関先で、握手ひとつでお別れをしました。
さあて、すべて用済みだと背伸びをする暇もなく、もう貞園の
真っ赤なBMWが私の目の前に滑り込んできました。
「貞園、真っ赤なBMWもいいけれど、やっぱり最後は
スクーターがいいな。
空港までは、君を後ろに乗せて走りたいね。
最後の想いでのために」
「それもいいわね、
じゃ、先に私の家に行きましょう。
最後に、ローマの休日のように、
おもいっきり台北を疾走しましょう! 」
台北は「新しさと古い歴史が混在する都市」と呼ばれています。
町並や建物などもその例外ではありません。
数百年の歴史を持つ中国式の伝統的家屋や、お寺の向こうには、
台北を代表する高層のビルや新光三越といった超高層ビルがそびえる風景が
広がっています。
いったい自分がどこの時代にいるのか、迷ってしまうような
そんな少し不思議な気分にもさせてくれる景色です。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 59 作家名:落合順平