コメディ・ラブ
決断
トニーの店内はプロ野球中継のテレビの音が響き渡っている。
客は俺と佐和子の二人意外には誰もいない。
麦酒を飲み干し、大きくため息をついた。
「ちょっと飲みすぎなんじゃない?」
「……なあ、晃さんっていい男だと思う?」
「うん。とってもいい男だと思うわ」
佐和子はうっとりしながら答えた。
「私もね、もうちょっと若ければね、ひと夏のアバンチュールの相手になったっていいわ」
おばちゃんもうっとりしながら卵焼きを机の上に置いた。
机を手で叩いた
「……ふうっ。女ってやつは。少しぐらい顔がいいからって」
プロ野球中継がCMに入り、晃さんのオリーブオイルのCMが流れてきた。
「安心、安全、オリーブオイル」
「美香ちゃんのこと?」
佐和子が興味深そうな視線を向けた。
おばちゃんも佐和子に同調した。
「だから言ったのに」
「……でもさ、美香は9回裏2アウト10対0で負けてるんだ。どっからどうがんばったって勝てるわけがない。」
俺がそう言い、満足そうにうなづく。
「恋愛なんてすべてタイミングなのよ」
佐和子が勝ち誇ったように言う。
「じゃあ俺のタイミングはいつなんだよ!」
俺がそう言った瞬間、自分で答えが出ていることに気がついた。
小学校の頃、美香の家へ向かって全速力で自転車を漕いでいるあの瞬間を思い出した。
その時だった。
ガラッと戸が開く音がして、入口を見ると美香と晃さんが立っていた。
「ごめん、こいつがさ寂しいから無理やりついてきたんだけどさ、いい?」
「無理やりじゃないだろう」
晃さんが反論する。
「こいつが最初さ、思わせぶりに手掴んでさ、どこ行くんだよって聞いてきてさ」
「誰がお前なんかに思わせぶりな態度とるんですかぁ」
「この野郎、佐和子とてっちゃんと飲むって言ったらずっと誘って欲しそうについてくるんじゃねえかよ」
美香が少し嬉しそうに言う。
「お前がどうしてもっていうから俺は来てやったんだ」
晃さんが言う。
俺は二人の様子をただ見ているしかなかった。
タイミング……。
私がてっちゃんの愚痴を聞いていたら、美香ちゃんが来た。噂のあの人を連れて。
「ごめん、こいつがさ寂しいからって無理やりついてきたんだけどさ、いい?」
美香ちゃんが嬉しそうに言う。
「無理やりじゃないだろう」
晃さんが勢いよく言う。
「何だと」
美香ちゃんが嬉しい気持ちをかみ殺しながら怒ったふりをしている。
「嘘、嘘、嘘ぴょーん」
晃さんが嬉しそう。何だか小学生みたい。
こんなに無邪気な人だったんだ。
最近親しくなって、晃さんのことでわかったことが一つあるわ。
晃さんって、頭にタオル巻いてるし、腕まくりしてるし、ジャージの上がよく似合う。
「……晃さんって普段は超ダサいのね……」
作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko