コメディ・ラブ
手に負えない女
昨日は全然眠れなかった。
久しぶりにベッドじゃなくて布団で寝たからだ。
なんだか体が痛い。
俺がロケ現場に入ると、優海ちゃんが泣いているのが目に入った。
監督と何やら言い争いをしている。
それにしてもあのスーパーアイドルAランクの優海ちゃんが泣いているのに、周りのスタッフはその様子を遠巻きにみているだけだ。
薄情な奴らめ。
俺は泣いている女を放ってはおけない。
俺が優海ちゃんの所に歩み寄ろうとすると義信に止められた。
「晃さん、今は駄目です」
その時、優海ちゃんの甲高い声が現場に響き渡った。
「優海はアイドルだから演技なんかできないの」
日本の仏陀と称されるほど穏やかな監督が怒っている。
「あいどるでも何でも俺に求められたことを、せめてやろうとしてくれ!」
「だって優海できないの!」
義信がそっと耳打ちをする。
「優海さんが演技がうまくできなくて監督ともめてます」
「もういや、降りる!」
優海ちゃんは唖然とするスタッフを尻目に鞄を持ちそのまま帰っていった。
どうすんだよ。おいスタッフ。誰かなんとかしてくれよ。
現場は騒然としている。
期待とは裏腹にスタッフが続々と俺の所にやって来る
「晃さん。」
嫌な予感がする。
「あの牧子っていうマネージャーはどうした?」
「おじいさんが危篤だどかで、九州の実家にいるそうです」。
泣きそうな表情で女性スタッフが言う。
「晃さん、スケジュールも本当に詰まってるんです」
課長までもが俺にすがってくる。
「晃さん、村の為にも是非!」
ロケ現場にいる全員が俺に熱い視線を送っている。
「…………俺にまかせとけ!」
俺の一言でロケ現場の空気が一瞬和んだのがわかった。
おかしい。晃さんが全部なんとかしてくれると思ってたのに、どうして俺までも優海ちゃんの説得に来ているんだろう。
まあなんでもいい。
俺の使命はこの村でのシーンを少しでも増やし、村をアピールすることだ。
晃さんが優しい声で呼びかける。
「優海ちゃーん」
ドア越しにさっきと同じセリフが聞こえてくる
「もう降りるから関係ないです。優海、明日東京に帰るもん」
思わずため息が漏れる。
「晃さん、俺たちじゃ無理です」
晃さんはしばらく考えて口を開く。
「こうゆうときは女、村に説得できそうな世話好きのおばさんいない?」
晃さんは簡単に言うけれど、村に世話好きの説教おばさんなんて都合よくいるわけが……
「いました!」
俺は一番大事な奴を思い出した。
「どんな人?」
晃さんが嬉しそうに言う
「的確なアドバイスと辛口コメントで同姓からの支持は熱いです。小山村の母って呼ばれてて……」
「何でもいいからそのおばさん呼ぼう」
「おばさんではないですよ。まだ若くて隠れ美人です」
俺は大事な所だけは否定した。
作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko