夢をつなぐ
「そして全国優勝をしてもらう、それができなかった場合はあなたは解任、当然教員としてもね」
「まぁ当然且つ簡単な話でしょう。 選手が一流で監督が無能なら優勝できなくとも、監督が一流で選手が無能なら優勝できる可能性のほうが高い、さらには選手十一人に高い金を払ってまで優勝させるより、一人の監督を雇って優勝したほうが低コストで済む」
「学院長がどうしてもあなたが良いと、しつこく頼まれたのだから雇ってあげたのです。 経験も、実績もないあなたをね。
結果が出なければ解任、当然の話でしょう?」
……めちゃくちゃ言いやがるな、こいつら。
サッカーを金銭感覚でしか捕らえてないって感じがもう丸出しじゃねぇか。
大体、監督や選手がどうのって話をしてたが、良い監督なんかごまんといるし、別に良い監督だからだとか、良い選手がいるからだとかで優勝、もとい勝っていけるわけじゃない。
実際、良い監督、良い選手が揃っているところでも、無名チームに負けることだってある。
そもそもこいつらはサッカーの試合、むしろサッカー自体見たことあんのか?
この学院の経営にかんでるお偉いさんがただから、そういう営業の話をするのは仕方ないとしても、もしあの芸術的で攻撃的、魅力的なスポーツを見て心から金をもうけるものとして捉えられないのであるならば、たいしたもんだな。
……まぁ、俺にとっては、いやこれまでの話を聞く限り、こいつらはスポーツマンをなめてるとしか思えねぇ。
何か言い返してやらなきゃなぁ。
と思ったのだが。
「失礼します、そろそろよろしいですかね?」
ドアをノックもせずに、軽い足取りで会議室に入ってきた小さなスーツの女性。
「そろそろ打ち合わせやら何やらがありますので、他の説明はこちらで行いますよ」
その小さなスーツの女性に引っ張られ、俺は何か言い返してやろうと思ったのだが
「うぉおおおおおおお!?」
小さな女性の俺の腕を引っ張る力が凄く、結局叫び声しかいえないまま会議室を後にした。
→ ↓ ← ↑
そのまま俺は引っ張っていかれ、ただ今、俺の職場となる白鴎学院院長室。
その学院長たる席についているこの百四十cm程の身長で童顔の女の人(先ほど会議室に無理やり乗り込み、俺を此処まで引きずってきた女性)が、この学院の学院長・柏木久美(かしわぎくみ)である。
「んで、どういうこったぃ、こりゃぁ?」
「なにがどういうことなの? ゆうちゃん」
「ゆうちゃんやめぃ!!こどもんときとはちがうんやから、普通によんでくれぃ」
……非常に遺憾なんだが、この学院長、柏木久美院長とは子供の頃からの付き合いである。
昔は姉弟のように、毎日の遊んでいた。
互いにゆうちゃん、クー姉と呼んでいたんだが……流石に俺は22、今年で23か、クー姉は24だから、お互いそんな年でもないだろ。
「あら? いいじゃない、お互い幼馴染みたいなもんなんだから。 ゆうちゃんも、私のことクー姉でいいのよ?」
「……ったくかわらねぇなぁ、クー姉。
いつの話をしてんだよ?」
全く、この人といるとなんか調子狂うんだよなぁ。
子供のころにしたってそうだが、さっきの会議室でも、俺がなんかやってやろうってするとき、どっかいこうって時、必ず現れる。
性別が逆だったら、ストーカー行為で騒ぎ立てられるんだが、そうもうまくはいかないから、逆に周りからは俺がストーカーのように見えてしまっている。
……なんて理不尽な世界になってしまったんだろうねぇ、この世界はさぁ。
「懐かしいよねぇ、あの頃はさぁ。 今じゃこうやって雇う身と雇われる身だもんねぇ」
「確かに懐かしいっちゃ懐かしいが、そんな年でもねぇだろうに。
まぁ、どこも雇ってくれなかった俺を、この学院に呼んでくれたことにゃ、感謝してるぜ?
でもよ」
「でも?」
今思い返してみるとそんな悪くもなかったよ、逆に感謝してるくらいだ。
子供の頃も、今回のこともな。
けどよ、なんで……。
「ぬぁんで、女学院!? めっさ気まずいだろ!? しかも体育教師、しかも男性教師俺以外ゼロだぞ!?
どうしろってんだよ!?
普通なら間違いなく即刻逮捕で追放だよ、永久追放だよ。
体育教師なんか身体的な接触が少なからず出てくるだろうが
なに考えてんだよ?」
「あぁ、そんなこと。
別に問題ないでしょ。ゆうちゃん、……祐志先生は男女関係ないし、接し方とか意識とか変わんないだろうし」
「俺は純情なだけだ、別に意識してないとかそういうわけじゃねぇ……しかもそれ、遠回しに俺がホモみてぇじゃないか?」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇ!! なんだその、私なにか間違えちゃった?みたいな顔は!? 違うからね!?普通に女子が好きだからね!? ノーマルだからね」
「まぁ、そんなどーでもいいことはほっといて」
「扱いひでぇな、おい」
昔からこの人といるとこういうところが調子狂うんだよなぁ。
なんか必要以上につっこんじまうし、疲れるし、振り回されるし。
「ともかく貴方には体育教師、及び1ー2のクラスの担任をやっていただきます、それと」
突然クー姉は立ち上がり、窓の外を見る。
「サッカー部の顧問兼監督をやって貰います」
「……クー姉、流石にそれは」
考えてることは解る。
普通に考えりゃ、それは適任だろうが。
「ん? 何か不満でもあるの?」
「いや、不満って言うか……クー姉、知ってるだろ?」
「なに? じゃぁこのまま黙って解任を待つとでも?」
「……いや、そこまでは言ってねぇが。
でも俺はもう動けるか解らねぇし、教えんのはプレーすんのとまた違うんだぜ?」
「余裕でしょ。 努力と根性で何とかなる!!」
全く解ってねぇ!? いろはのい、どころか日本語すらしらないど素人くらい解ってねぇ。
この人、というかこの学園の人たちはスポーツ選手達に失礼な人しかいねぇな。
「……貴方はどちらにせよ、サッカーの世界から離れることなんてできないよ。
だからコーチもやったし、真剣に悩んだ。
……真剣に悩めるってことは、それだけ本気でやってたってことでしょ?」
「……まぁ、な」
「選手にしろ、監督にしろ、ほとんどかわらないよ。
大事なのは気持ち、熱心さ。
技術とか教え方とかはあくまで+αでしかないよ」
……それは俺にもよく解ってる、技術や体力、戦術なんていうのはやる気があって、どこまでやれるかで十分補える部分だ。
どんなやつでも果てしなくやり続けることができれば何処までだって高めることができる。
重要なのはそれを獲得するために必要な、【気持ち】。
俺はその部分がかけている、いや、失っちまってる。
本当はやりたいさ、好きで好きでたまらない。
……でも、どこかで恐れちまってるんだ。
また、途中であんなことがおきてしまうことを。
「勝手な話だって言うのは解ってる、今までのどんなことよりも。