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猫の妖精と魔法技術者

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序/「おなか、すいた……」




 風が砂漠の乾いた砂を巻き上げる。
 砂塵で目を潰さぬように、旅人はマントで顔を覆う。
 広大な砂漠だ。地平線まで続くこの砂漠は、名を白骨砂漠と呼ばれている。白骨のような真っ白な砂が一面を覆う砂漠で、キャラバンを組まずに横断しようモノならば、その身はその名の同じ真っ白な躯と化すも必至と言われている。その白骨砂漠を、一人の旅人がたった今、踏破しようとしていた。
 旅人は砂色のコートを身にまとった子供だ。フードより覗く金髪は、黄金よりなお輝いて見える。肌の色はその黄金の髪を惹き立てるような白磁の肌。目深に被ったフードで目元を隠している為、その容姿までは窺い知れないが、少なくとも成人のようではない。
 よもや遭難者と見紛う状況ではあるが、旅人の足取りに迷いはなかった。
 白い砂漠に墨を引くように、黒い石を敷き詰めた道が引かれている。道はボロボロにひび割れ、その道が過ごしてきた幾年月を物語っている。
 ――さて、道というモノは人の居住地を繋ぐものであり、少なくともその道を歩き続けていればいずれ何処かの町、コロニーに辿り着くことは明白である。
 故に、旅人が迷う道理はない。今、旅人を苛んでいるのは曇ることは知らない晴天と一滴の汗すらも存在を許さない太陽であり、途方のない旅路ではなかった。
 旅人は空を仰ぐ。そこには一点の曇りもない蒼穹と自身に影を落とす『竜』の姿があった。
 世界は滅んだ。そして再生した。文明は崩壊し、また新たな文明が出来上がる。人類は隆盛と衰退を繰り返しながら進化してきた。
 失われたテクノロジー、そして復活する魔域の法則。世界は様変わりするのに幾程の時間も必要なかった。
 旅人は、かつて極盛を誇った大地を踏みしめ、前へと進む。
 しかし、今も昔も、人間とは変わらないモノだ。いくら身体が変わり、技術が変わったからと言っても、その中身は変わらない。
 ――旅人は独り語つ。
「おなか、すいた……」


序/「おなか、すいた……」――了
作品名:猫の妖精と魔法技術者 作家名:最中の中