草薙教授の人間学講座
「初心を忘れない事が、犯罪に繋がらない事になるという事ですか？」
「鋭い質問をありがとう、渡瀬くん
犯罪という点では、初心というのは的確ではなかったね
ただ、最初に感じたこと
つまりは、自分の原点だよね
仕事であっても、学問であっても
目指すものや目指す自分があれば、それが自分の原点だと私は思う
人としての原点というのは、善良であれという事ではないだろうか
しかし、品行方正で正直に真っ直ぐであるというのはとても難しいことだ
後悔という部分で先にも話したけれど、正しい方向というのは
決して楽ではない
人と言うのは弱い生き物だ
誰でも楽をしたがるし、楽な道を選びたいものだ
そんな弱さが誰かを傷つける原因にもなる
けれど、誰も自分が弱いとか間違っているとは認めたくない
誰かを批判する事も、誰かを非難する事も簡単だ
けれど、批判したり非難する前に
自分がそれを出来るかどうか問う事も必要だ
批判や非難よりも自分と向き合う事、自分と対峙する事が
何よりも難しい
人が自分の脳みそを使いこなしていないのと同じくらいに
自分の事を理解していない事も多いのではないだろうか
他人を理解する事も難しいけれど、自分自身の本質を知る事も
またとても難しい事なんだ」
「教授は、ご自分を理解してますか？」
「痛いところを突いてくれるね・・・山本くん
私自身、自分の本質を理解しているかと問われると
理解しているつもりだが、そうでは無いかも知れない
ただ、自分の弱い部分は知っていると思うよ
そういった弱さをもっと早くに気付いていれば
離婚なんかしなかったかも知れないけどね」
「教授の離婚の原因って、何だったんですか？」
「ものすごくプライベートかつデリケートな事を
さらりと簡単に聞いてくれるねー橋本くん
まぁ、昔の話だし
隠す程の事も無いんだけど」
「浮気だったりして」
「聞こえたよ 浅見さん
残念ながら、浮気では無いんだなー
私の奥さんだった人は、学生時代の先輩でね
私との結婚生活よりも、自分のキャリアに向上心が
あったってとこかな
私は、そこを完全には理解出来なかった
それが最大の原因というところかな
私は、そんなにモテ無かったしね
まぁ、女子学生諸君の中で私に好意を持ってくれている人が居るなら
私も今は花の独身者だから、やぶさかではないけど
そこ、笑ったのは中井さんかな？
ちょっと傷ついたなぁ」
「いえ、教授はとても魅力的だと思います」
「ありがとう
今の一言で傷は癒されたから、中井さんには
加点しておくかな」
「僕も教授は魅力的で、目標的な存在です」
「島田くん
それは二番煎じ的発言だな
残念ながら、減点対象だね
では、今日の講義はここまで
次は、必要なもの、不必要なものについての結果となります」
作品名：草薙教授の人間学講座 作家名：fool