草薙教授の人間学講座
「やはり人間として大切なのは、愛を持って生きるという事
そういう事ですよね？」
「くそ真面目な顔をしてそういう事を言うのは
愛が一番大事だと言った松井くんだからこそですね」
「松井は愛の狩人ですからね」
「白井くん、笑いを堪えつつ言っていますが
では、白井くんは何なんでしょう？」
「僕ですか？僕はそうだなぁ・・・
さしずめ愛の放浪者といったとこでしょうか」
「放浪者ですか 詩的ですね
さぁ、男子学生諸君、笑ってはいられませんよ
私は皆さんにそれぞれ自分の目標だとか夢を語って貰おうと
思っていたのですが
今日は、自己紹介も含めて話して貰おうと思っていたのです
その自己紹介を、松井くんや白井くんのように
冒頭に一文付けて貰うことに今決めました
おっ、諸君の顔色が変わってしまいましたね
思いつかなかった人には、免除という事で
では、愛の狩人松井くん
君の夢や目標は何ですか？」
「教授、狩人は白井が勝手に言ったんです
僕は、どちらかと言えば、愛の心酔者ってとこです」
「それは、失礼
さぁ、みんなも笑わないように
松井くんは、多分おお真面目なんですから
「勿論です
僕は愛に埋もれて生きて行ければ最高なんですが
それでは窒息してしまうので、こう見えて実は薬学部なので
薬の研究開発が出来ればと思っています」
「おお その辺りは本当に真面目に考えているようですね」
「医学にしても、薬学にしても日々進歩しています
不治の病は未だ沢山存在しますが、苦しんでいる人を
少しでも助けられる薬を創り出す事に、自分も
少しでも関わる事が出来れば本当にやりがいがあると思っています」
「素晴らしいですね
健康を維持する事は、人にとってとても大切な事ですね
その為の手助けをするというのは、尊い事だと思います」
「教授、私は看護の分野の勉強をしています
それとは直接関係がある訳では無いんですけど・・・
最近、疑問に感じる事があって」
「どういう事ですか？澤田さん」
「例えばクローンの牛が産まれた事がありましたよね
それ以外でも色々、命の創造という部分で、倫理的に
許されないと言われる事がいくつかあります
確かに、通常は人と人が交わって新しい命が生まれ
そして死んで行く
それが理に適った事だというのは判ります
けれど、生まれてから死ぬその時までの時間を人は
コントロールしていると感じるんです
昔、医学が無い時代は、病気になれば治す事も治療する事も無く
命を落としました
けれど今は、医学の発展で治る病気も沢山あります
その為に人工血管や人工心肺まであるんです
人が生きて死ぬ事が自然の摂理だというのなら
何らかの方法で人工的に命を繋ぐ事も、自然の摂理に
反するのではないか
ならば、人工的に命を創り出したり、コントロール
する事とどれだけの違いがあるのか
ここまでは許すけれど、ここからは許せない
そんな事を言う人の言葉は、たんなる驕りとしか思えないんです」
「澤田さん・・・
また厄介な問題を提起してくれましたね・・・
へへっ なんて笑ってる場合では無いですよ
出来れば私もここで
そうですねー難しい問題ですねー
と、スルーしたいところなんですが
ここでスルーしてしまうと、私の存在意義が薄れる気もします
そろそろ講義の時間も終わりに近付いているので
今日はこのへんで終わります
この澤田さんの意見に関しては
おのおのが多少でもいいので、考えをまとめて来て下さい」
作品名：草薙教授の人間学講座 作家名：fool