University to GUARD 第2章
「{さぁ指揮官。通信すれば作戦が漏洩、単独行動にでればチームワークは皆無。如何する?}」
「なめた真似を。貴様は何者だ」
「{つまらない会話だ。やめよう、貴君達と話すことなどなにもない。散ってくれ}」
「総員S(スタンド).A(アロン)に移行せよ。図に乗らせるな。以上」
フォックス1の通信を合図にフォックス2,3が一斉に動き始めた。フォックス1の援護を盾に4が迅速に移動を開始してその場を離れていく。フォックス2の周囲に生い茂る木々が揺れるや否や、揺れた木々に、まるでモモンガよろしく、高速な移動でフォックス2が移って行いく。木を足場に次から次へと飛びうつって移動し、一瞬足が止まった。
「そこか」
つぶやいた刹那、フォックス2はディスプレイに映ったわずかな点の方向めがけて移動を開始した。
両肩に搭載したのは強力な磁場形成装置とその制御装置だった。周囲の指定した磁場環境を構築し、周囲のオブジェクトを任意の極性に磁化させる。そして自身もまた全身を磁化した上で、移動の瞬間にのみ足の裏に搭載したブースターで加速し、そこへ極性を自身と反転になるよう磁化させたオブジェクトめがけて飛翔することで引力をも加速力に引き込む。これよにって、瞬間的速度を極限まで加速させて移動していた。無論、対象となるオブジェクトの極性は自身が次蹴りだす刹那に反転させることで、斥力に変えて加速力に引き込む。大地や空間そのものを磁界とすることで、自身の地球上における相対的質量を極限まで軽くしてあるからこそできる芸当だった。いわば、物と物の間を超高速で移動するヨーヨーあるいはスーパーボールである。そして、アーマノイドといった“特殊”な機械から発せられる磁力を感知できるこのデバイスは、遠方から発せられる磁力を見つけ出したのだった。
超高速な磁場の高度な制御に加えてセンサー解析。フォックス2のアーマノイド内では凄絶な演算が行われながらも、敵の反応を確実にとらえ続けていた。気づけたはずだった。磁場制御と高速移動に特化させていなければ―――。
「しまっ」
敵の一気に増大した。周囲で、しかもそれぞれが別々の磁場極性を放ち敵の正確な位置がズレ始める。こうなっては一度足を止めて、フォックス2が稼働させている“マグネティクスモード”を解除せねばならなかった。刹那の間に増殖した敵性勢力のアーマノイドが、マグネィクスモードからノーマルモードにもどると同時に、HMDの右上に表示される。四機+追っていた一機の計五機。包囲している四機がじわじわと距離を詰めてくる。腰を低め、周囲を窺った。それが過ちだったのは冷静になればわかる話だった。
「捕獲じゃなかったか―――」
追っていたスナイパーが見事にフォックス2の頭部に銃弾を命中させた。被弾したわずかな合間に視認できた。自身のアーマノイドにおける頭部耐久値が瞬く間にゼロになったことを。
「{まずは一人。後は任せたぞ。出力容量が三十%を切った。俺は先に上がらせてもらう}」
フォックス2を撃ったアーマノイドはのっそりと立ち上がると、銃身が自身のアーマノイドの倍以上あるライフルを眼前から消すとその場を去った。
「{おいおい、自分の仕事は終わった、ってか。釣れない男だな}
「{構わないわ、来るわよもう一機が}」
「{勇ましいねぇ。あっちはこっちが四機いるってわかってて突っ込んでくるんだもんな}」
「{俺だけで充分だな。お前らは見てるだけでいい}」
フォックス2に比べれば遅い。だが、持てるブースターを総動員しているのであろう。音速に近い速さで猛然でこちらへ向かってくるアーマノイドがいた。槍を両手で握り締めて突っ込んでくる。アーマノイド越しでもわかるような怒気を孕んでいた。
「{いよう、遅刻の救世主さんよ}」
フォックス3が槍を突き出すと同時に四機いたうちの一機が、紅い機体を惜しみもせずに見せつけながら同じ色にペイントした槍を突き出した。
「{何か喋ってくれてもいいじゃねえか。そのために回線合わせてやってるっつーのに。なぁ!}」
紅い機体が横に薙ぐと同時に紫電が槍の軌跡を辿っていく。
「{無言、か。つまんねーやつだな}」
フォックス3が槍を構え直すや否や、すぐさま突き出していく。木々には一切当たらず、しかし確実に紅を貫くがごとく繰り出した。槍が何度も正面から激突しては互いに弾かれ再度突き出していく。何度目かわからないくらい激突を繰り返した末に紅い槍が砕け散った。
勢いがついたようにフォックス3は紅へととどめをさすかの如く―――。
「{しまった……なんてな!}」
槍が止まった。紅い機体の両手でいとも簡単に。
「{じゃあな、勇敢にして愚鈍な隊員さんよ}」
槍を引き込むと紅い機体の右手がフォックス3の頭部を鷲掴みにした。左手は側頭部に添えられる。
「ぐっ!」
見事なまでに輝かしい発光したかと思いきや、瞬時にフォックス3のアーマノイドが強制解除された。
「{エクストリームボルテージ。ま、言ってもわかんねぇわな}」
フォックス3は紅い機体が担ぎ、残りの三機の元へ向かった。
「{あと二機か。えらいスピードで離れて行ってるぞ}」
「あの距離ならもうこちらのネットワークから抜けただろう。こちらも通常に戻せ」
「了解」
「あちらは放っておこう。“伝達”が必要だ」
四機はその場を後にした。紅い機体の両肩に男が二人担がれながら。
「ようやく回線がもどった」
「よくやったフォックス4。ハンターへつないでくれ」
「こちらハンター、どうやら二機は無事のようだな」
「どうなってる。あれじゃあまるで俺たちがハンティングされていたようなものだ」
フォックス1の語気が強まっていく。意に介さないようにハンターの声は冷静そのものだった。
「我々も持てる情報が少ない。デルタ部隊からの情報収集もままならない状態だったのだ。デルタ部隊は敵性アーマノイドを追っていた。そこで信号が途絶えたので、こちらはそのアーマノイドを捕獲する作戦で君らを召喚した。どうやら我々の認識が甘かったらしい」
「認識の甘さで我々は壊滅の危機にあったと言うのだな」
「君らの怒りももっともだ。話は後でじっくり聞かせてもらう。まずは君らの生還が最優先だ。送信したポイントへ向かってくれ。迎えを寄越す」
フォックス4のエリアマップの右下、自分たちが進んでいる方向の延長上に赤い点が表示された。フォックス1のHUDにも同じマップが同期されているため、確認できた。
「そのポイントに今から三十分後、SF-1<超高速無人航空機>を向かわせる。近づいたら同期をとれ。同期用パスワードは“フライングフォックス”だ。声紋パターンはフォックス1、君のものに指定しておく」
「了解した」
何かを押し殺すようにフォックス1は返答すると、通信が終了した。
「この座標ポイント、ちょうどこの辺を流れる川の下流域付近ですね。いくつかの川が合流しています。少々開けてはいますが……」
フォックス4を担ぎながら、スキップの要領でフォックス1は跳躍しながら自身が移動できる最大の速度で指定ポイントへ向かっていた。
「どうかしたか?」
作品名:University to GUARD 第2章 作家名:細心 優一