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「舞台裏の仲間たち」 57~58

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 窓から離れた貞園が、まっすぐな瞳でみつめてきます。
昨日のことで用心をしているのか、舐めるようにして呑んでいるビールですが
すでに白い肌の頬には、ほんのりと赤みがさしています。

 「この先を少し歩くと、岬に出て
 その先端には、鳴らすと幸せになれる恋人たちの鐘があるんだって。
 恋人たちの幸運を呼ぶ鐘っていうんだけど、ロマンチックでしょう、
 行こうよ、順平」

 狭い部屋の中で、男女が面と向かって話す話題にしては
ちょっと過激すぎたため、すこし歩くのもいいだろうと考え二人で
表に出ました。
昨日今日と低い湿度が続いている亜熱帯の夜の風は、思いのほか肌寒く、
表に出たとたんに貞園が、身震いをして胸の中に飛び込んできます。

 明るい月が、銀色の海面の上にうかんでいます。
点々と連なる街灯と少なめの家の光は、満天の星の輝きを
邪魔することもなく、観光客の去ったリゾート地に静寂をもたらしています。
月の明るさが、眠りにつこうとする時期外れのリゾート海岸の全てを
照らしだしさらに岬に向かう細い路を、白く浮かびあがらせています。

 「戦争と言う異常な現実が、
 従軍慰安婦や公娼制度を生み出したのかしら。
 男の人の性は、只の本能だもの、
 暴走し始めると際限がないものだから、怖いわね。
 性にまつわる生理的な要素や本能が、理性だけで制御できるのかしら
 難しい問題だと思うけど」


 「貞園はまだ18歳だ、焦る必要は一切ないさ。
 愛と性にまつわる出来事は、古今から山のような事例があるよ。
 人間のもつ本来の清純さからくる、美しい愛と性もあれば、
 獣まがいというか、表には出せないむごいものまであまたある。
 人類がこの世に生き続けている限り、
 男と女が生きている限り、
 その人数分の愛と性の形が、常に生まれるし、
 頭数の分だけ、いろんなドラマが生まれるし造られる。
 生きざまという、深淵だ。

 とても解明できるものじゃない」
 
 「なんだか、うまくはぐらかされちゃった。
 順平にかかると、燃えかかった火まで、うまく消されてしまいそう。
 つまんない! 」


 「そんなことよりも、早くも岬の突端だ。
 可愛い展望台があるけれど、貞園の言う恋人たちの鐘は見当たらないね。
 道を間違えたかな 」


 「ちゃんと、鳴ってるわ、ここで」