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とある王国の物語2

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しばらく続く、平和な会話。
「そう言えば、章(あきら)がさー」
「へ、章?」
章と言えば、卒業式の放課後に残念な上司を押しつけられた誠と共にやってきた、あの男である。庵が他人の話を持ち出すなど珍しい、と思いつつ、綾は聞き入った。
「章が何」
「彼女できたんだって」
「へー」
別にいいだろ、と突っ込む。
「年下、在校生だって」
「ぶっ・・・・・」
噴き出した。かなり盛大に噴き出してしまった。
「あの“とさか”が!?」
思わず目を見開くと、庵が少し口元を緩ませた。
「そう、“とさか”が。」
『とさか』というのは、章の少々ひどいあだ名だ。中学時代、当時の彼女に振られてから少しでもモテようと、毎朝髪をセットしてきていた章だが、前髪を極端に・・・と言う程でもないのだが、重点的にいじっていたせいで、『とさか』というあだ名が付けられてしまっていた。誰が付けたか、というのは思い出せない。
「あの顔で・・・あ、いや、失礼か」
「本人いないしいいよ、事実だし」
あの顔で、とはいうものの、正直言って章の顔は“捨てられた柴犬”そのものだ。これも『とさか』というあだ名を付けた人と同じ人物が言っていた気がするのだが、ボケてしまったのか、中学時代の記憶が全く抜け落ちている綾には、思い出す事が出来なかった。
「柴犬・・・」
呟いてしまったこの言葉に、庵も噴き出した。
「しばっ・・・いぬっ・・・っ!」
「ぶっは・・・・!」
抱腹絶倒。しばらくして笑いが収まっても、腹筋が痛かった。

章と言えば。困り顔を最後まで覆さなかった「残念な上司を押しつけられた」誠は一体どうなったのか。クラス内ではそこそこ仲が良かった相手なので気になった。
「誠は?・・・衛にこき使われてる?」
寮の問いかけに、庵は一瞬キョトンとした後すぐに遠い目になった。
「あー、誠か・・・・」
「え、何その反応」
「誠、誠、ま、こ、と・・・・う~ん」
「え、え、ええ!?」
いつもとは絶対に違う反応にビビる。が。
「うん、こき使われてる。ってか、衛だいたい不在だから」
「不在ッ!?」
それも杞憂に終わったらしい。ひとまず安心する。
いや、それにしても。隊長が不在とは、情報部隊は大丈夫なのか。
「いや、不在って・・・。どうして?」
「うん、衛はいつも軍隊の方に遊びに行ってる。この前透也(とうや)の事彼女連れで連れてきたから。あれはうるさかったし、最高機密の事漏らしそうになってたから、二人が帰った後ちょっと締めといた」
「ふ~ん・・・・」
ちなみに、透也の彼女は章(とさか)の元カノである。今ではいいお友達、に戻っているようだが。
 学院時代にも庵が衛を締めている(いじっている?)のは幾度か見たことがあった。その力関係は今でも継続しているらしい。
「ま、最高機密漏らそうとしてたならいいんじゃね?」
「衛なら何やってもアウト」
「そう」
「うん。で、まぁ隊長がそんなだから、誠は大変そうだよ。昼食一緒に取ってるんだけど、必ず胃薬飲んでる」
「あぁ、胃薬・・・」
「隊長の仕事も込みでほぼ残業無しでこなしてるから、元々仕事は早い奴だけど、何か手がすごいスピードで動いてる」
「へぇ・・・大変だな」
「大変だよ」
綾は今度、誠に差し入れを持って行ってやろう、と心に決めた。



話が一段落ついて時計を見ると、既に11時を回っていた。このまま徹夜で喋っていたい気分だが、綾も庵も明日は普通に出勤だ。
庵も気がついたらしい。寝よっか、と声を掛けてきた。
「明日に響いたら困るしな」
「この時間まで起きてるのも、結構響くと思うけど」
「確かに」
綾は立ち上がり、クローゼットからもう一組布団を出した。庵は既にベッドの中にもぐりこんでいる。昔から、庵が泊まりに来ると綾の方が客用の布団で寝る羽目になっていた。
苦笑しつつ、電気を消す。
「おやすみ」
「・・・・・・」
「・・・無言かよ」
布団に入り、目を閉じる。自覚していなかったが存外疲れていたようで、ものの数分で意識が落ちた。


作品名:とある王国の物語2 作家名:黒官