とある王国の物語2
「意外とお疲れなんだ」
明かりが消えてから数分後。床の方から規則正しい寝息が聞こえてきたのを確認して、庵はゆっくりと身を起こした。
毎度の如くベッドを占領していたら、とうとう何も言わずに譲ってくれるようになった。まぁ、ベッドくらいでは恐喝罪にはならないだろうが、実は少し申し訳なく思っている。
身体を乗り出して、下で寝ている綾を見てみる。枕元に眼鏡が置いてあったので、スタンドライトを少しつけてかざしてみた。
「度・・・強いな・・・・」
視力は0.1無いと、前に言っていた気がする。超薄型、とは言いつつもレンズは厚い。
前に話してくれた悪夢。いくら小学生だったからとはいえ、薬物で記憶を消されたとはいえ、心の奥深くにはいまだに情景が焼き付いているらしい。
彼女――――黒城(くろじょう)弥生(やよい)とも、綾は仲が良かったから。仲良くしてなければ、楽しかった中学時代の、記憶を消されてしまうことも無かったのに。
眼鏡をいじるのに飽きた。元あった場所に静かに戻す。
「俺は、友達だから・・・。 でも、でも・・・・」
それだけじゃないから・・・。
小さな小さな呟きを声にすることはなく、庵は口をつぐんだ。
―――ただ、信じて。俺は、嫌だから、嘘とか。
腕を伸ばして、庵はスタンドライトを消した。
暗闇の中、静かな寝息だけが聞こえた。