「舞台裏の仲間たち」 55~56
「あらすじの話をしただけだ。
特に感動させるようなことを、言った覚えはないけど」
「何げなく言っていたひと言に、私はとても魅かれたわ。
映画の全編に【優しさと想いやりが、あふれていた】と、言ったでしょう。
それを聴いた瞬間にこの人は、とても素敵で
良質な感性の持ち主だと直感をしたもの。
いい人なんだってピンと来た。
だもの・・・・
わたしになんかには、
絶対に手を出さないはずだと思った」
「そんなことはないさ。
貞園をみていると、欲望をおさえるのに必死だよ」
そうなの?と、
貞園が目を丸くして私の顔を覗きこんでいます。
夜市のひとつ寧夏路は、円環(ロータリー)からは一方通行に変わります。
基本的には夕方から賑わう夜市の一つですが、昼間から営業をしている
屋台などもちらほらと見ることができます。
通りが広いせいか、車やバイクなどでやって来る地元の人たちが、
道路の真ん中に勝手に駐車をすると、食べ物を求めて通りを一斉にあるきはじめてしまいます。
貞園と連れだって、数軒の屋台を物色し始めた頃には道路の真ん中が
すっかり一直線の駐車場と化していました。
「あら、順平は禁欲しているわけ?
別に、遠慮をしないで手を出せばいいのに。
一度くらいなら、減るわけでもないし」
「こらこら、あまり過激な発言をするなよ。
君が先に、私は売春婦じゃありませんと白状をしたんだぞ。
いちおう私も、健康な30歳の男子です。
人並みレベルの性欲は有るよ。
だからと言って、見境も無く、すべての女性に手を出すわけじゃない。
君は充分に魅力的だけど、
それとこれとは、また別の問題さ」
「安心した。
私に女としての魅力が足りないのではなく、
順平の自制心のほうが、本能よりも強いというわけね。
なんだ、でも、つまんない・・・・」
「まったく、君には悪女としての才能が充分すぎるほど有る。
それよりも、あれからわずかな時間に、
ずいぶんと人が増えてきたね。
そろそろ台湾の夕食の時間かな」
「そうね、
普通台湾では家庭内で夕食を食べないで、
ほとんどが屋台や出店で食事をするわ。
ましてここの夜市は、地元の人たち専用みたいなものだから
日が暮れてくると、一斉に人が集まってくるの。
ほら、ここの名物の豚まんの屋台には
もう長い行列ができてしまったわ」
作品名:「舞台裏の仲間たち」 55~56 作家名:落合順平