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「舞台裏の仲間たち」 55~56

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 もうひとつ、豚の角煮という別称をもつ、【肉形石】(にくがたいし)は、
豚の三枚肉の形をした宝石で「玉髄(ぎょくずい)」という
原石で出来ています。
色は後から着色をしたものですが、皮の表面には毛穴まであるという瑪瑙類(石英)を利用して、色の変化する特性を生かした作品になっています。


 「ねぇ順平。
 私おなかがすいちゃったぁ。
 よく考えたら、昨夜から何も食べていないんだもの・・・・
 屋台へ、何か食べに行こう」

 貞園が空腹のあまりに、悲鳴をあげました。
そう言えば貞園は、昨日の聞き取り調査以降は何も食べずに
時を過ごしています。
ホテルに戻ってからも、何もいらないからとさっさとベッドにもぐりこみ、
寝返りばかりを繰り返していました。

 「白菜と豚の角煮が効いたかな。
 いくら見ても宝石や彫刻では、お腹は満たされないしね。
 そのへんで、なにか美味しいものでも探そうか。
 それでは再びスクーターにまたがって、
 ローマの休日といくか」

 「屋台街へ行こうよ。
 もうペコペコだもの、何でもいいから片っ端から食べたいわ。
 円環(ロータリー)を越えて
 屋台で賑わう寧夏路まで行こう」


 当然というべき顔で、貞園はスクーターの後部座席に座ります。
ヘルメットを阿弥陀に被るともう両手を拡げ、私がハンドルを握るのを
待っています。
昨日、今日と貞園が「ローマの恋人乗り」と名づけたこの相乗りスタイルで、
私たちは台北の町中を、ずっと移動しつづけています。

 「食欲が戻ってきたのは、貞園がすこぶる健康な証拠だ。
 たった一日の間に、ローマの休日と従軍慰安婦の話題を往復したのでは
 いくら元気な貞園でも、精神的に耐えきれないさ。
 眠れなかったみたいだね」

 「順平が、慰めに来てくれるかと思って期待していたのに。
 ちょっぴり残念でした。
 ねぇ一晩中、書き物をしていたみたいだけど、
 黒光ってなぁに?
 ずいぶんメモにたくさん書いてあったけど・・・・」


 「相馬黒光は、明治時代に生きた素敵な日本の女性だよ。
 今その人の生き方をテーマ―に、演劇の脚本を書いているんだが、
 ちょっと最後の部分がいき詰まったままなんだ。
 退屈しのぎに、一晩中、あれこれと思案をめぐらして
 いただけさ」

 「私といると、退屈と言う意味?」

 「いや、君といるとそれだけで楽しい。
 貞園と一緒に居ると、
 妹と暮らしていた頃を思い出すし・・・・」

 「妹さんが居るの」

 「妹は、18歳のときに上京をして、
 その2年後に、ある人に見初められて結婚をした。
 昨日まで一緒に暮らしていた兄妹が、あっさりとあっというまに、
 別々の土地に離れて暮らすようになってしまったのさ。
 だから私の記憶に残っている妹は、
 いつまで経っても18歳の時のままなんだ。
 ちょうど貞園と、おなじくらいの年頃さ」

 「じゃあ私は妹さんと同じの、子供扱いなの?」

 「貞園は子供じゃないさ。
 女性としも魅力的だし、身体も心も充分に成長している18歳だとは思う。
 でもね・・・・
 妹以上であることは間違いないけど、
 正確に言えば、まだ恋人未満かな」

 「なにそれ、よく解らない!」

 貞園が後部座席で暴れ始めました。
早くなにか食べさせないと、もっと凶暴化をしてしまいそうな気配がし漂っています・・・・