蜜柑の実る頃は
除夜の鐘。
遠く、明かりが見える。何があるのだろう。
今年の厄を送る灯か。来年の福を招く灯か。
どうか、連れて来ておくれ。
優しい実花の魂を。
――泰造兄ちゃん。あの日、食べた蜜柑、甘くてとってもおいしかったよ。
それに 温かかった。泰造さんの温もりまで貰った気がする。
あれから、待っていたの。家を出て……。此処で待っていれば、また逢えるって信じてた。
でも、可笑しいの……。
何だか、脚が重くなってきたの。もともと悪い脚だけど、動かないの。
私、どうしちゃったんだろう。
脚が土に吸い込まれるような感じ。ううん、そう根っこが伸びていくの。
そうだ。
あの日、飲み込んじゃった種が、芽を出したみたい。
あの日、飲み込んじゃった種が、根を張ったみたい。
どうしよう。
でもきっと、泰造さんが来て、助けてくれると信じてた。
やっぱり待っていて良かった。ほら、今こんなに近くに居られるんだもの。
ずっと ずっと 泰造さんの傍で 過ごしているから。
これからは、実花が泰造さんを助けてあげるから。
実花の蜜柑をずっと大切にしてね。
大好きな泰造さん。
実花の命の続くかぎり
あなたを
愛しています。
泰造は、夢の中にいた。
新年、初日が昇り、蜜柑の木の下で雪に埋もれた泰造は微笑んでいた。
― 了 ―