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蜜柑の実る頃は

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ある村に泰造(たいぞう)という男が住んでいた。
 泰造の家は、貧しくはなかったが、生活はさほど楽とは言えなかった。
泰造は、隣町へ仕事に出かけて行くほかに 三年前に、泰造の父親が大病をしてからは、小さな畑だが、母親を助けて畑仕事も手伝いながら続けている。
早朝から畑の土を掘り返したあと、仕事に出かけ、残業がある時でも済ませてから畑へ出かけ、手元の明かりで間引きをすることもあった。
また、収穫できるものを摘み取っては、軽トラックで集荷場へと運び、仕事に出かけた。
「どちらかにしたらどうだ?」と村の世話役が心配しても、にこやかに「まあ、畑は両親の宝物だからね。いつか親父ができるようになるまで守ってやらないと」と答えるだけだった。
 そんな心優しい泰造だったが、まだお付き合いをしている女性はなかった。
容姿は、特別人目を惹くほどではないものの、見劣りすることはないし、町の仕事場での評判も悪くはない。可もなく不可もなくといってしまえばそれまでだが、泰造自身が、積極的ではないのが、一番の原因のようだ。
 村の世話役だけでなく、お節介な近所の小母さん、仲人したがりの夫婦などが、縁談話を持ち込んでも、「まだまだ、僕なんて世帯を持つなんて無理ですよ」とあっさり断ってしまうのだ。
 ある日、泰造の母がそんな泰造に聞いたことがあった。
「どうして、断ってばかりなの。写真見せてもらったけど、綺麗なお嬢さんよ。あなたに勿体無いくらいだけど。でもそろそろ、身を固めてもいい歳だと思うわよ」
「そうかなー」
「お父さんや母さんのことなら心配要らないし、畑だってできなくなればおしまい。今の仕事を続ければいいんだから」
「結構、畑仕事が面白くなってきたよ」
嬉しいやら 頼もしいやら 心配やら 母の心境は複雑だった。
 そうこうする泰造だったが、村にはそんな泰造を見つめる目があった。
 幼馴染みの実花(みか)という泰造より二つ年下の娘だ。

作品名:蜜柑の実る頃は 作家名:甜茶