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移ろいの中でⅡ 12月12日 廃棄物と金になる農業 追加

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忘却

「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓(ちこ)う心の悲しさよ」

 有名なラジオドラマ「君の名は」の冒頭に出てくる来宮良子のナレーションの一節は、この後真空管ラジオからノイズ交じりに「君の名はと・・・」と高柳二葉の歌が始まるのがとても印象的なのだが私は織井茂子しか知らないけれど、そんなこと書いたところで若い人は知るはずも無ければ興味もないだろう。
 嬉しいかなこの「君の名は」のラジオ放送が始まった昭和27年4月10日に私は未だこの世に存在しておらず「君の名は」を知ったのは佐田啓二、岸恵子による映画で、それもリアルで見たことは無いが当時この放送は絶大な支持を得て、その様は「銭湯の女湯に人が居なくなった」といわれたほどで、それは誇張であったにせよ一般にとても受けた番組であったことは間違いない。「銭湯の女湯」というのがいかにも当時を良く表す言葉で、戦後7年たってまだ敗戦色が抜けきっていない年、空襲を逃げまとい、愛する人と離れ別れがあったわが身に照らすものも多かったのではないかと考えてしまう。また、映画のシーンで岸恵子演じる氏家真知子がショールを頭に巻いたことからその巻き方を「真知子巻き」と呼びそれを真似た女性が多くいたというのも当時の映画人気を感じずには居られない。


 それにしてもこの「君の名は」の冒頭の忘却とは・・から始まるこの一節とストーリーの持つ感情を多くの国民が理解し共有したというのが素晴らしい。今この冒頭の言葉を言って内容と、感情を理解できる人がいったいどれくらいいるのだろうと思うとなんとも薄っぺらく成ったものだと感じてならない。携帯やPCでいつでも連絡付く今日、半年後の今日またここで会いましょうなんていっても白けてしまうだけで、ましてや会えそうで会えないなど考えられないと言われそうで、数分でも遅れれば「今どこ?」なんて電話が掛かるようでは人を信じて待つ身の思いなど味わえるはずはないというもの。コインの裏表、得るものがあれば失うものも同じようにあり、便利さの分待つことによる思いの深みはなくなってしまった。