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カブラのシチュー

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 ホントはものすごくソンミンと食事したかった。けど、避けられていた理由が分からないのと、農友としか思っていないこととか、A子さんのこととか、もう、何か訳分からなかったんだ。悲しいしさ。ソンミンの顔みているのがつらかった。体調悪いのもあるんだろうけど。

 家に帰ってから本格的に風邪の症状が出てきた。喉はものすごく痛いし、寒気するし、関節と筋肉痛いし、頭は熱っぽくぼぉっとする…… 早々に布団に入った。
 ああ寒い、寒い、寒いよお…… 体中痛いよお…… こういう時ひとり暮らしって最悪。俺、このまま死んじゃったらどうしよう…… ソンミンは悲しんでくれるだろうか。「もっと裕也に優しくしておけばよかった」て。そう思ってくれたら嬉しいなあ……

 ピロピロピロ……

 電話がなった。
 あ、ソンミンからだ。
「裕也、今、マンションの下まで来てるんだけど開けてくれる? 」
「うん」
 ああ。ソンミン! 来てくれたんだね!
 泣きそうに嬉しい。

 マンションのオートロックを解除して部屋の鍵を開けて待つ。ほどなくしてソンミンとなぜか拓己(たくみ)もやってきた。あ、拓己ってのはフォース最後のメンバー。優等生なんだ拓己は。何でも出来るし、めちゃくちゃ鋭い。きっと俺が風邪ひいているの心配してくれたんだな。ありがとなー(涙)

「裕也、薬飲んだ?」
 しっかり者の拓己が訊ねる。
「ううん。薬ってあんま好きじゃないんだ。それに風邪薬って色々問題あんだろ? この前TVで言ってたからさ…… ほんとはショウガ汁かネギスープでも作ればいいんだけどこうヘロっちゃうと無理で」
「そりゃそうだ。裕也は寝てな。台所借りるよ」

 拓己はソンミンとキッチンに行って食品をチェックしている。えー、ショウガとネギはあったと思うけど……分かるかなあ……
 ソンミンがやってきて俺の額に手を置いた。ソンミンの手はひんやりして気持ちいい。けど、嬉しくて熱上がりそう……
「熱、あるね。冷やしたほうがいい。……水枕とかある? 」
「ない……けど、冷凍庫にアイスノンがある」
「分かった」

 その後、ソンミンは俺の面倒をみてくれて、拓己は喉の湿布を作ったり(焼き塩ってのが効くらしい)、ネギのスープとおじやなんかを作ってくれた。買い物も行ってくれた。あーー、いい仲間を持って俺は幸せだ…… ありがとう、拓己、ソンミン。…………て、フリッツは仕事だよね。うん、そうに決まっている。だってアイツ仲間はずれにされるの本当は嫌いなはずだからな。

 結局、しばらくしてから拓己は帰っていった。ソンミンが帰したらしい。俺はぜんぜん気づかなかったけど、後からよく考えたらライブも近いのに、メンバー同士で風邪が感染ったら大変だもん。拓己が来てくれたのは、ソンミンひとりじゃ行動とりにくいって思ったからだ。ソンミンは、熱愛報道から記者に張りつかれていたから。

「今日はここに泊まるから」
 ソンミンはそう言って俺のベッドの隣に、来客用の布団を敷いた。俺はすごく嬉しかった。ずっとそばにいて欲しかった。ソンミンに風邪が感染っちゃ悪いなあ、て思いもあったけど、その時は甘えたい気持ちがいっぱいだった。何よりヘロってたからな。
 拓己の指示したように、焼き塩が冷めてきたら温め治して喉に当てる、ってのを、ソンミンはずっとしてくれた。それがかなり効いたんだ! もうビックリだよ。あと、頻回のウガイも。

「ソンミン何か話しして」
「話?」
「韓国は風邪ひいたらどうするの? 」
「えー……唐辛子料理食べる。辛いもの食べて汗出して治すんだ。でも、それは日本人には合わない。いちどやって大ブーイングだった。風邪治らないし、胃腸はヤられるし、次の日下痢した!ってものすごく怒られたよ」

 ソンミンは笑った。あーかわいい。

「だから裕也の治療は拓己に任せたんだ。……面白いね、拓己の治療法も」
「あいつ中国人の乳母に育てられたらしいけど、この焼き塩もそうなのかな」
「さあね。けど、よくなってきたからよかったよ。……もう、眠りなさい」
 そう言って俺のまぶたに手をのせた。もう、ドキドキだよ。彼への想いがいっぱいになった。

「ソンミンはA子さんと結婚するの? 」
「え? 」
 のせていた手をはずす。目が合う。
「熱愛報道の彼女だよ」
「あれ、裕也信じてたの! 違うよ。あの子は韓国から来た親戚の子だよ。事務所もそう発表したろ? 実際、あの子だけじゃなくて、あの子のオモニ(母親)も泊まってたんだ。ホテルに泊まればいいのに、日本のマンションにどうしても泊まりたいって言ったから」

「えーーーそうだったの」
「そうだよ。俺は誤解を受けるから嫌だったんだけど、あっちは年長の親族の言うことは絶対なんだ」
「そうなんだ……」
 自然、顔がほころんでくるのが分かった。そうか、そうだったのか…… A子さんは親戚の子だったんだ。

「裕也は分かりやすいね」
「え? 」
「今、ものすごく安心したろ? 」
 図星。
「俺、そんな裕也が好きだよ」




 意味不明。
 いま好き、とか言いました? 俺、熱にうかされて幻聴が聴こえたんだろうか? それとも、この好きはペットとかに感じる好きってことかな?
 この間、俺はソンミンとじっと見つめ合っていた。穏やかに微笑むソンミン。その瞳は温かくて優しくて愛にあふれている。

「メンバーとして好きってことだよね」
「もうちょっと好きかも」
「…………」
 よく分からない。俺、こういった曖昧言葉ニガテ。ソンミン、日本人じゃないのに俺より日本語上手いからな。

「どれくらい好き? キスしたいくらい? 」
「うん」
 背中が……ざわざわする。これ、悪寒じゃなくて嬉しい興奮?
 顔が熱いよ、きっと頬が紅潮している。
 ソンミンは俺の頬に手を当ててじっと見つめた。……これって……そういうことですよね? そういう『好き』ですよね?

 目を閉じた。

 軽く唇をつける。その後、ソンミンは軽く右、左、とずらしてキスしてくれた。
 ゆっくり目を開ける。ソンミンのドアップ。綺麗な白い肌が目の前。
 嬉しくなって彼の首に手を回して抱きついた。そのまま何度も口づける。
 ああ…… 嬉しい……ずっと、ずっとこうしたかったんだ。

「裕也もうだめだよ。風邪ひどくなっちゃう」
「あ……」
 その時、はじめてソンミンに風邪、感染(うつ)ちゃったらどうしよう、って思い出した。俺、気づくの遅すぎ……
「ごめん、ソンミン。俺の風邪、うつっちゃう」
「そん時は裕也に看病してもらう」
「そりゃするけどさ、何でもするけど、ライブ近いのに……」
「大丈夫。……俺、いま、風邪ひく気ぜんぜんしないから」
 ソンミンは笑った。うん、そうだね。俺もすごく幸せ。すぐに風邪も治りそうだよ。別の意味での微熱は続きそうだけど……

「ソンミンは俺のこといつから好きだったの? 」
「うーーん、分からない。いつの間にか好きになってた。最近、よく会うようになってからかな? だって裕也ってものすごいラブ・パワー送ってくるだろ? あれ気にならないほうがおかしいって」
「ラブ・パワー? そんなの俺送ってた? 」
作品名:カブラのシチュー 作家名:尾崎チホ