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シンクロニシティ

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 Rの弥生が叫ぶ声。精神病棟からすぐに向かった先。それは所長室で恋人である町田と対面していた二人。突然の屋上からの地割れにより崩れた天井に埋まる町田。一階の所長室から助けを呼びに走り出したRの弥生の頭上には晴れた夜空が見える。稲妻と共に。そこでは田村と春日による戦いが続いている。



【フェム-second-time+10(秒)-確認済】



「墜ちろ」



 煌々と照る月に雲が少ない夜空から墜ちてくる稲妻。それは春日を守る壁のように隙間なく二人の間に堕ちる。



【シンクロ】



 虹色の影が稲妻をすり抜ける。それはすでに春日の背後。田村の影が振り向いた時には、すでに春日は30メートル離れた屋上の端までシンクロしていた。



「面白くない奴だな。もっとアナログな自然災害を楽しもうよ」



 満面の笑みを浮かべながら春日は両手をかざし、田村に向かって振り下ろす。



 その動作から現れた生き物。全長15メートルを超える10トン近い太古の生物。手足に比べ、頭部が異常に大きく、歯と顎だけを武器とした最大の生物。その鳴き声が聴こえていれば、直視した直後には絶望だけが待ち受ける最強の生物。ティラノサウルス。

 地割れに足を挟まれながらも、頭部はすでに春日の眼前。支所の屋上から飛び降りるように、開いた口から田村へ倒れこむ。



【ZONE-1/1000】



「させないよ」



 田村の後ろへシンクロしていた春日は、その背中をティラノサウルスに向かって蹴り込む。

 精神病棟の外へと駆け出した桜と鈴村。その轟音の元を直視したとき、拳銃を握ればいいのか、逃げればいいのか、太刀打ちの出来ない恐竜の存在に立ちすくむ。

 二人は動けない。動けない理由は、目を薄めた先に見えるティラノサウルスの目の前に居る人物が春日と田村であると確認できた事を含めて、助けられる距離でも敵う相手もでないことに。そして、食べる事だけを優位に進化した太古のティラノサウルスに、下半身を外に残した状態で噛まれる瞬間だった。



「あ、あれは……何!? どうなってるの!?」



「水谷!! あれはきっとデータで作り出したRの生物だ!! 春日の仕業か!」



     ◆◆◆



 19:26 シンギュラリティ世界。地下施設。

 モニターに映るティラノサウルス。

 パフォームの田村が噛まれた瞬間、その巨躯な肉食動物は、口元から虹色の光を放ち徐々に体、手足に侵食してひび割れが一瞬見てとれたと同時に、割れて細かく弾けた。それをシンギュラリティ世界のモニターで見ている町田は円卓に両手の平を乗せ、立ち上がり、弱音を零す。



「あれは、まずいな。触れたと同時にEMPは放たれたが、衝撃も同時に……フェムに守られていても、本体の生命力が深刻だ。そして世界の寿命もな」



<全惑星-500億年-準備進行中-完了再計算-10分以内-準備完了後-更新予定>



     ◆◆◆



---*---

 Fortune(幸運)Electro-Magneticwave(電磁波)。FEMフェム、それは自らを守るプログラム。先の未来を察して、それを視覚的に、自分を守る道を導いてくれる『幸運の道を見せる電磁波』。死に直面した意識の薄い器を必要とし、自らを守るため、肉体を限界以上に強靭とする。それは防衛プログラムとして活用していきたかったが、いったん本体の生命力が弱まると、プログラムの主導権の認識は混乱し、自我が崩壊し、理性を失った動物的な本能のジャメヴュ(未視感)となる。

---*---



 腹を一瞬裂かれたパフォームの田村。意識レベルは低下し、ミッションの重要性よりも、自分の身の危険を優先する。



【ミッション-停止-防衛mode-開始】「ぐるらあああぁぁああああ!!!!」



 降下しながら叫ぶ田村。身の危険を優先されたパフォームは、自分に災いをもたらす可能性がある者を察する。それは精密な分析ではなく、野生的なものだった。

 豹変しながら地面へ落ちていく田村を空中で見下し眺める春日。パフォームの機能を弱めたフェムだけに支配された田村を驚異とは思わなくなっていた。それは春日が見せる油断でもある。



「ああなれば、ただの猫だね。じゃらす気も起きないよ。そしてほかにもいるね」



 春日が確認したそれは、田村同様に送り込まれたパフォームの刈谷の虹色の影。それはRの桜の影を追いかけながらも、春日へ真っ直ぐ向かってきていた。



「君らじゃ俺に勝てない!! 俺を一瞬でも超えられる事ができると思う……あ、が、ぁ」



 向かってくる刈谷を影で眺めながら空中で待ち受ける春日の油断。それは自分の敵となる存在がパフォームと地にたたずむ鈴村しかいないと思っていた事。目の前に赤く光り輝く鋭利であり、終わりが見えない長さの物が自分の胸から伸びてくる。そして、春日の後ろに居る者が語りだす。



「お前に会ったら殺すつもりだったと言っただろう? それが変わったわけじゃない。お前は『我々』が人間の必要性があるか見たかったと言った。だがな、それは『我々』ではなく、お前だけだ」



 春日の胸から飛び出ている刀剣。それは生物を殺傷する為として一切の無駄がない。先端の切先きっさきから刃先はさきへ流れる赤は生き物である証拠を表し、物打ものうちにしたたる刃紋はもんの波は、元から赤だったのではないかと思えるほどしたたる鮮血が、月の照りに白い線を浮かべる。



 それと同時に、濡れた全身を重だるくさせながら地面へ沈むRの桜と、それを追いかけてきたパフォームの刈谷。

 春日の背中で語る男は、影から見ればらせん状に伸び上がる青い光の束の頂上で足を固め、刀剣を握る柄つかの終わりとなる頭かしらに平の手を当てながら、引き抜く事を考えない絶対の殺傷を狙った一撃を放っていた。

 パフォームの刈谷は目標をとらえる。それは春日とRの鈴村。



「す、鈴村……いや、加藤……き、さま」



「そうだ!! 加藤達哉だ!! お前から、地球と信じていたモンストラス世界の真実を120年前に聞かされ!! シンギュラリティ世界の進化を待ち!! 『monstrous時代』を生き抜き!!  お前にシンギュラリティ世界へ送り込まれ!! Rの鈴村の体を得て復活した加藤達哉だ!! 『EARTH(地球)』!! 惑星はお前の遊び道具じゃない!! この刀は!! シンギュラリティ世界で磨いた刀!! 崩れた館から、ここに運ばれた俺の刀!! 俺の怒りの塊だ!!」



 春日をEARTHと呼ぶ加藤達哉。モンストラス世界の住人。monstrous時代が始まったころ、加藤の父親の体を器として現れ、現在の春日の体に巣食う者。EARTH。



---*---

 130年前、フェムが世界を覆い、全ての者が狂い、襲い、食すmonstrous時代。世界の進化を遅らせるモンストラス世界は失敗作と判断したEARTH。それを作り出したシンギュラリティ世界をも滅ぼすか、それともどちらかを残すかを委ねられた加藤達哉。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ