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シンクロニシティ

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 本部の職員が総動員で警護している会場。政治家だけでなく、自殺者ゼロという不可解な不死現象を疑問に思う一般人も含めて討論し、話し合う会議。代表的な要人が座る円卓の中の一人、鈴村のZOMBIEが熱弁を奮っていた。



「皆さま!! これがおかしい事とは思わないで下さい!! 我々LIFE YOUR SAFEは自殺者が未遂で終わるように完全なる監視の元!! 多発する自殺に対して要警護してきた結果が自殺者ゼロとなったにすぎません!! それが100年以上前から始まった我々の理想であり、価値でもあるのです!!」



 ZOMBIEの鈴村が放つ言葉に、一般人が手を上げる。その手はどの大人よりも低いところから伸びた手であり、目につかないその手を見つけた職員がマイクを持って近寄る。それは母親と一緒に訪れた男の子の手だった。年がふた桁になったかどうかの子供の手は震えながら、それでも鈴村へ伝えたい言葉を話した。



「ぼ、ぼくのお父さんは……今日、悪いことをして……捕まり……ました。けど、けど……僕のお父さんは……そんなこと……絶対しない……です。だって……今日は……山でのお仕事のあと……夜桜を見に連れて行ってくれる約束したんだ!! お父さんに! 会いたい!!」



 その言葉は会場中に響く、それは、父親を心から信じている子供の叫び。それは、この世界で何かおかしい事が起こっているという訴え。心に響く者。涙を流すもの。すでに目覚めて、この世界に疑問があると思いうなずく者。その中で叫び始めたのは、すでに目覚めている者だった。



「キャーーー!!」



「どうかいたしました?」



「消えたわ!! 子供が消えたわ!!」



 マイクを持ちながら叫び始めた女性に近づく職員。叫ぶ女性が目を疑うように直視する位置。そこは直前まで発言した子供と、その母親の座っていた席。すでに二人の姿はなく、それは最初からその場にはいなかったように、その席は別の人物で埋まっていた。けれど、目覚めている者にとっては、それは直前まで確実にあった事実であり、注目されたその子供を何度も目を配っていたはずであった。

 目覚めていない者たちからすれば、突然取り乱した女性の精神を疑ってしまう光景。左右の者とざわめき始めながら苦笑混じりに理解を求める。これが何か蔓延した病気か何かではないのかと、腕を組み、この会議の意味を再認識しながらうなずく者や、哀れな目で心配しながら心を痛める者もいる。その中で、その取り乱す女性を後押しするように、発言する者も現れてきた。



「俺も聴いていたぞ!! 姿は見えなかったが、確かに父親に会いたい気持ちを語っていたぞ!!」



「私もよ! 確かにその辺りで、勇気を振り絞って、発言してたわ!! どうしてみんな! それを忘れてしまっているの!?」



 数百人が眺める広大な会議会場を傍観する者の中で、すでに目覚めた者からの発言は、あまりにも弱かった。見間違え程度や聴き間違え程度にあしらわれる雰囲気。再び、鈴村を含めた中心人物だけの会議となり、それまでのことは風のように流される。

 19:12 モンストラス世界の本部と支所の間にある川を挟んだ陸と陸をつなぐ陸橋がそびえる付近には、桜一色に咲き乱れていた。川沿いの歩道を歩く三人の家族がいる。それは母親と父親に挟まれて手をつなぐ満面の笑みを浮かべた子供の姿。



「予定通りに桜が見れて良かったわね」



「ああ、まだまだ仕事を頑張るからな! 父さんは出浦家の柱なんだから、こいつが大きくなるまでは父さん頑張るぞ!」



「うん! お父さん! 頑張って!」



 本部の会議会場にいた事を知らない子供。そして、その日にあったトラックの暴挙も知らない出浦。強く願った想いは、目覚めていない者たちには、それが間違いのない現実。それは世界で、相次いで発生していた。

 19:13 モンストラス世界。精神病棟。地下二階。

 シンギュラリティ世界と時間が自動調整され同期した現在。



 目の前に倒れている田村と刈谷の亡骸を眺めながら、壁にもたれて座り込むRの桜。すでに最後の会話から20分ほどその場で考え込んでいた桜は、立ち上がり、倒れた刈谷を見ながら独り言を漏らす。



「なんなの? 何にも感じないわ。私は二人の刈谷を殺したのよ? どうして実感が沸かないの? キャリア? ふざけないでよ! 無駄ね」



 二人の亡骸に背を向けて階段へ向かう桜。歩きながら目を細めて、自分の野望の成就を想像しながらも、刈谷の亡骸の隠滅をするために自分の影だけを振り返らせた時、それは影の視界で二人の亡骸を見た瞬間、見たこともない認識色が見えた。



「な、なんなの!?」



 振り返る桜。そこには虹色に光り輝く二人の亡骸。それは亡骸のはずだった。

 デジャヴュが起こらない世界。時間が戻らない世界では、刈谷と田村が動き出す事は起こり得ないはずだった。喜怒哀楽を感じず、恨みも疑問も感じられない表情で、桜に正面を向かせながら立ち上がる刈谷。続いて刈谷の背中で横を向きながら立ち上がる田村。二人に感じるクオリアは、本人以外の誰かだった。

 胸を張りながらハの字に両腕を広げ、媒介ばいかいしたパフォームが確認をする。



【媒体ばいたいR-田村龍平-完了】



【媒体R-刈谷恭介-完了】



【ミッション-開始】



 19:14 精神病棟。地下三階。

 収容室の中では歓声が上がっていた。それは弥生を取り囲み、目覚めている者も、目覚めていない者も、目の前で起きたその事実に弥生を崇める。



「神だ!! あんたは俺たちを救いに来たんだ!!」



「あんたは俺たちを新しい世界に導いてくれるために現れたんだ!!」



「俺もあんたに懺悔する!! 願いを聞いてくれ!!」



 収容者であった出浦の想いを聞いていた弥生。その最中に、強く家族に対しての願いを念じた出浦は、その日に行う予定だった家族との夜桜を楽しんでいる。息子に会いたいと願った出浦。それを強く弥生に懇願した結果、その場から消えた事実は、願いを受け止めたと錯覚させた。



「ちょっと……え、どうしよ」



「あははぁはあぁ……神、かみ、あはははぁ、神っているんだなぁ」



 自我を失っていた下村敦。地下二階から地下三階へ収容された男。少しずつ言葉の認識を取り戻しつつ、収容室の男たちの間を這いずるように弥生へ近づく。



「神……さまぁ……俺……俺……だいじな……人、いた、はず……思い……出せない……逢い……たい」



 デジャヴュを繰り返していた下村。記憶がほとんど壊されながらも、欠落した記憶に、温かい感情が残り、目からは涙を流していた。その悲痛な声は、桜にも痛いほど伝わる。大事な存在を失う気持ち。その気持ちはこの世界の被害者だと感じ、弥生の後ろより言葉をこぼす。



「きっと思い出せるわ。強く、強く思い出して。大事な人の思い出は、きっと苦しくないはず」



「そうよ、そんなに逢いたいなら、相手も願っているはずよ」



「死ぬ……前に、一度でも……思い……出し……たい」


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ