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シンクロニシティ

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 自分がここにいる状況を分析する鈴村。鈴村が生きている限り、Rの鈴村の命令はくつがえされない。その命令が完成するまで邪魔がされない精神病棟へ収容された本体の鈴村。そして、この階層の収容者が叫ぶ言葉にも一理あり、違和感があった。普段は収容者が騒げば守衛が見回りに来たり、定期的に食事を配給する。その様子が見えない事に、守衛の身に何かあったのではないかと想像する。それはすでに全ての階層にいる守衛を気絶させている春日の仕業。丁寧に地下三階から上階に向かってひとりひとりの意識を奪っていた。

---*---



――葉巻は全て奪われた。今俺が止めるすべは見つからない。可能性があるとすれば、シンギュラリティ世界のエンジニアである町田が全てに気づいていれば、何か対応をするかもしれない。今日も何度か潜入していたはずだ。しかし基本的には秘密の漏洩を防ぐため、町田が死亡しない限り代わりはいない地下施設。シンクロの開発報告以降、連絡はとっていない状況で、誰かを派遣させる可能性は不明だ。



「……ってどう思うあんた?」



 独り言のように話を続けていた出浦。何を話していたか耳に入っていなかった鈴村はゆっくり立ち上がり、それまで一度も言葉を返していない鈴村は出浦に発言する。



「出浦さんだったね。なあ、あんた、俺を殺せるかい?」



 出浦の目は仰天していた。それは、鈴村のこぼした言葉よりも、鈴村の向く方向の逆に立つ、桜の姿だった。



「私にはできるわ。鈴村―――!!」



 鈴村へ向かって地面を蹴り出す桜。その桜の脚力は一瞬で鈴村の懐まで飛び込む。両腕を交差して防いだ鈴村は、肩から突進してきた桜に弾かれるように吹き飛ばされる。鈴村より後方にたむろをしていた収容者たちは、その鈴村を支えることも出来ず巻き込まれるように飛ばされる。背中を鉄格子まで弾かれた鈴村は、意識を失わないようにすぐ立ち上がり、鉄格子に手を持たれながら話し出す。



「水谷……ハァ……ハァ……その力……は、まさか、加藤の……」



「があああああああ!!」



 再び鈴村へ突進する桜。その形相は鈴村が加藤達哉の館でみた加藤そのもの。横に避ける鈴村が着るコートの脇には桜が鷲掴みに突き出した右腕がコートを貫き、鉄格子の外へ肘まで抜き出ていた。鈴村はその腕を脇で挟み、問いかける。



「水谷!! しっかりしろ!! お前は、加藤の能力を受け継いだのか!?」



「ぅらぎり者があ!!!!」



「ぉおおーケンカだぞ!!」



「お? 女じゃねえか!! ハハハ!! 何の余興だ? 俺も混ぜろよ!!」



「裏切り者? 水谷!! お前はなぜ俺を狙う!!」



 別の収容室から野次を飛ばす声。それらが耳に入らない桜は腕を引き抜こうとする。しかし鈴村はそれを頑かたくなに離さず、問いの答えを待つ。



「鈴村!! お前は言った!! 恭介を助けるために撃てと!! なぜ恭介は死んだ!!」



「加藤の館で俺が言った話とは違うぞ!! 殺すのはお前と春日だと言った!! 何の話だ!!」



「お前は本部の病室と管轄室で!! 私にモンストラス世界にいる刈谷を殺せと言った!!」



「俺は治療室にお前を運んでからは、一度もお前と会っていない!! それは俺のRだ!!」



 桜の力が弱くなる。それは食い違う話。動きを止められた事で話を聴くことができた瞬間、お互いの認識が大きく違うことに鈴村を攻撃できなくなった。



「ど、どういうこと……私は……騙されたの?」



 腕を離す鈴村。そしてゆっくり語りだす。



「お前とは管轄室で会っていない。俺は、ファクターである春日と、Rの俺によって、ここに閉じ込められた……全ては、罠だ」



 桜からの言葉が返ってこない。初めて聞いたファクターの名前。聞き覚えが強い名前。呆然としたその背中には、桜の力によって弾き飛ばされていた収容者たちが立ち上がり、桜と鈴村を取り囲む。



「おい、あんたら一体なんなんだよ……何のつもりだあ? 殺すつもりかぁ? 殺せるもんなら殺してみろよぉ」



「へへ、あははぁ……女だぁ……あひゃひゃ、なんのサービスだぁ、これはぁ」



 拳銃を取り出そうとする桜。そして腕に付着した赤に気づく。その赤は、鈴村の脇から流れていた。



「水谷、俺は……しばらく動けそうにないが、お前の拳銃を貸してくれ。こいつらを抑える。お前の……今の力なら、ここからは出られるだろう」



 言葉を返せない桜。自分は何か大きな間違いを犯してしまったのではないか、そして我に返って気づく、自分にある不可思議な力。それが何か全く理解できなかった。どうして良いかわからず、そして収容者がジリジリと間合いを詰めてくる切迫に、ひとりの声が響く。



「ちょっと!! あんたたち!! 何してんのよ!!」



「ぃて!」



 鈴村と桜の前に立ちはだかり、近寄ろうとする男に突然平手打ちをする弥生。



「女囲んでいきがってんじゃないわよ!! だからあんた達モテないのよ!! それで、ここは何!? 刑務所? 違うわよね!! 鉄格子が白い刑務所なんて知らないわ! 精神病院かなんかなの!? 誰か答えてよ!」



 弥生の一喝によりたじろぐ収容者。その収容者によってできた人の壁の奥から、出浦が前に出てくる。



「気持ちのいい啖呵たんかだね、お姉さま。確かにここは精神病棟ですよ。自殺志願者が必ず閉じ込められる場所です」



「そう! じゃあ私が全員の話を聞いてあげるわ! 座りなさい!! ……早くしなさい!!」



 弥生の言葉に声も出ず、ひとり、またひとりと座りだす収容者。その気合に、桜の表情にも笑みがこぼれた。



「ハハ……弥生さん、すごいわ」



「桜さん、事情は知らないけどね、管轄と話さなきゃいけないことあるでしょ! 納得するまで話しなさい! これ、救急セット! 手当してあげてね。消毒と止血用のテープ使って!」



 弥生の指示を受けながら鈴村の治療をする桜。その間に、鈴村に起きた出来事を桜へ話した。弥生は横耳で聞きながらも、興奮していた収容者の話を聞いて落ち着かせようと、まずは最初に話し掛けてきた出浦の話から聴き始める。



「……というわけで、俺は、ここで審査に落とされて、なぜか誘導されるようにトラックでここの支所へ突っ込んだんですよ。そこの水谷っていう女性に向かって……なんか雰囲気違うけど」



「じゃあ、あなたは自分の意思じゃないわけね! 私は信じるわ! だってすでに今日はおかしいことばかり起きているんですからね! きっと何か理由があって、あなたは巻き込まれたのよ!」



「本当は、今日は息子連れて、家族で夜桜を見に行く予定だったんだ……それなのに、こんなことになって……ああ、息子に会いてえよ!!」



「え? あれ?」



 弥生が疑問を発するその収容室で、皆が息を飲んだ。目の前で起きた事態に、理解が出来なかった。

 19:11 モンストラス世界。本部会議会場。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ