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シンクロニシティ

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 銃弾がかすかに聴こえたRの鈴村。ひとつの節目が終わった事を理解した。Rの鈴村は振り返ることなく、地下一階にある倉庫へ向かって歩く。Rの弥生から預かっていた鍵を使って開錠すると、そこには、焦げ臭い動物性の皮のような匂いが漂っていた。それは、加藤達哉の館の倉庫に固めてあった品々。

 各々の目的にたどり着き、先に進もうとするRの鈴村と桜。デジャヴュの存在しない新しい時間が進みだす。



「やっと……殺せた。始まるわ、私の新天地」



     ◆◆◆



 18:59 シンギュラリティ世界。管轄室。

 ノイズ混じりなANYの報告アナウンス。拳銃に銃弾を装填する桜。壁中のモニターは割れ、破損し、どれだけの機能を有しているのかわからない管轄室。それはすでに緊急事態と判断された空間。外部の音が遮断されていた管轄室のドアは緊急解除され、救急セットの鞄を持ちながら、すでに管轄室の外まで来ていた弥生は室内の様子に驚き、桜へ近づいた。



「桜さん!? あなた大丈夫? ひどい傷じゃない! 病室から消えていたから探していたのよ!」



 無言でゆっくり立ち上がる桜。弥生の声を一切耳に入れない様子と管轄室の破損状況を見て、続けて話しかける。



「これ、あなたの仕業なの!? どういうつもりなの? 管轄は? いったい何があったの!!」



 その言葉にも反応を見せない桜は、静かにリンクルームへ近づく。そして、ANYに言葉を放つ。



「ANY。聴こえてるでしょ? 私をRの鈴村和明まで運んで」



<モ……ト……-LI……YO……FE-R-鈴……明-……ス……ス-不在>



 ノイズが酷く、聞き取れないアナウンス。その空間の中でも、ノイズが混じっていないスピーカーの音が聴こえてきた。それは今から入室しようとするリンクルームのスピーカーである。



「ANY……Rの鈴村のところへ連れていって」



<モンストラス-R-鈴村和明-ロック不能>



「どういうこと?」



<R-鈴村和明-認識データ不足>



「ANY……それなら、人間の鈴村和明のところへ連れて行って」



<リンクルーム-モンストラス-目標-鈴村和明-目標-ロック-転送開始>



「ちょっと!! 桜さん! どこに行くつもり!?」



 本部の職員のほとんどは管轄である鈴村の行方を追っていた。桜の暴挙に、すぐに見つけられない職員を探して助けを呼べばいいか、拘束すれば良いか悩む弥生はリンクルームの桜に駆け寄る。すぐにリンクルームのドアを閉めようとする桜。しかし、破片がスライドドアの途中に挟まり、勢いよく閉めることが出来ない。その破片を先に拾う弥生。そして、自分の行動を投げかける。



「桜さん! 私は医者よ!? どんな気持ちであなたを治療したと思ってるの! 怪我人を一人で放っておくことなんか出来ないわ!」



「早く閉めないと、あなた死ぬわよ?」



 リンクルームはすでに作動している。その空間に一歩足を踏み入れている弥生。体の半分をリンクさせられる可能性と桜と一人にさせられない事に、桜の入室しているリンクルームへ入り込む。



     ◆◆◆



 19:03 モンストラス世界。精神病棟。地下三階。

 白い鉄格子が並ぶ地下三階。そこは一人部屋の存在しない共同収容室。1部屋に10人は収容できるその空間では鉄格子にしがみつきながら叫ぶ声が階層に響く。



「おいおいー! メシはまだかよぉー! 食わせる気がねーなら最初から助けてんじゃねーよ!!」



「あはははぁぁあぁははあ……これ、白って言うんだぜぇ……白って知ってるかい? 白だぜぇ白! 白!! あははははあ!!」



「本当だぜぇ!! 屋上で地割れが起きたんだぜ!? 地割れ!! 割れたんだよ!! 俺は頭おかしくねーぞ!!」



 自殺を繰り返し行った者の収容室。改善が見込まれる者は地下二階の階層へ上げられるが、自分は真実を言っていると言えば言うほど、改善の見込みがないと判断され、長期に渡って収容されている。ほとんどは叫び、自分の真実を訴える者。中には収容者へ暴行を繰り返し、中には自殺を繰り返し、中には、繰り返した自殺により、自我を失った者が集団生活をしていた。

 その収容者が鉄格子に立ち並ぶ奥に一人、片膝を立てながら座りこむ銀色のフードコートを被った男がいた。その男は、長身な体は座っていても存在感がある鈴村。そして、鈴村に対して話しかける者がいる。



「なあ、あんた、いつからここ居る? 俺も今日入れられた者だけど、あんた、居なかったと思うんだよな」



 フードを深く被った鈴村が少し見上げると、その話しかける男に見覚えがあった。それは、ファイルの写真の男。本部で渡された支所でトラックを暴走させた男である。



「なんだ、無口な奴だな。俺は『出浦いでうら』って言うんだけどな、俺は、なんでやっちまったのか、よくわからないんだよ」



 まるで自分の意思とは無関係にやってしまった暴挙だと独り言のように話す出浦。まともな話し相手が見つからない地下三階の収容室では、言葉を発さない鈴村が一方的な話を聞いてくれるような相手に思えた。



「なんだろうなぁ……確かにここの審査に落ちてムカついてはいたけどさ、俺には大事な家族がいる。あんな事、考えもしなかったんだぜ? なんていうか、やらなきゃいけないって思ったんだよ、て言っても、実際やっちまったからなぁ、まあ死人が出なくて良かったよ」



――ここの収容者たち。中には目覚めて死を繰り返した者もいれば、自殺をする直前に幻覚のような物を見せられ躊躇したもの。確かに自殺を実行する前には、それを食い止めるための緊急処置プログラムは用意していた。しかし、シンギュラリティ世界の物体がモンストラス世界に強制リンクを繰り返すバグが度々発生したため、プログラム停止をしていた。それに、今話しかけているこの出浦は、明らかに自分の意思とは違う。春日の仕業か。



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 自殺者に対して行っていた緊急処置プログラム。それは自殺を躊躇させるためにデータを作り出し、それを具現化させるもの。しかしそれは目覚めた者にとって、この世界に対して疑問をもたれることにもなり、狂信者を作り出す材料にもなった。それが再び作動した理由を考えたとき、それはANYに潜伏していた春日の存在が頭に浮かんだ。

---*---



――春日が俺をシンギュラリティ世界から遠ざける理由。それはANYに対しての命令を防ぐため。ANYに命令をした場合、命令をした者にしか解除できない。声帯が同じなRの鈴村の命令であれば、俺の声で解除できる。それを防ぐため。それ以外で解除するには、命令の優先順位が高い者から、死亡が確認された時のみ。俺を殺したいが、殺せない、というところだろう。



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作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ