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シンクロニシティ

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「耳付いてんのかい? カ・リ・ヤ・さん! ハハハハハ! 壊れたあんたから聞いても役立たないでしょ! 撤収するぞ! ん? なんだ?」



 気配を感じない田村の取り巻き。それは息を殺したようなものか。振り向けば突然の暴力により声をあげる職員。



「がぁ!」



「ぎゃ!!」



「おい! 職員! 誰だ~? あんた!」



 桜に放った田村の銃声が耳に入ったRの鈴村。その経過を眺めに来た地下二階。そこに立ちふさがった田村の取り巻きである三人。一番後ろから構えていた職員の田崎は後ずさり、言葉も出せず口を何度も開閉させると、戦意を失ったように廊下へ腰を落としていた。その様子を知らない職員は立ち向かい、一声を発すると同時に廊下へ沈んだ。



「鈴村管轄!!」



「か! 管轄!?」



 田村が一番に対面したかった管轄である鈴村。その人物が目の前に現れるということ自体が世界に対して疑いの止まない田村にとって、それを受け止める気持ちの余裕はなかった。



「か、管轄~? は! なんでこんなタイミングで……俺は騙されねえよ! 今日の全体業務は確認してる! 管轄は本部の不死現象会議の真っ只中だ!」



「あぁ……出席してるさ……俺が」



 Rの鈴村からすれば真実。本体の鈴村がZOMBIEを利用したことはANYで確認していた。この世のわずかな理ことわりだけしか体験していない田村にとってZOMBIEの存在は知るよしもなかった。そして、それを丁寧に話して理解してもらう気も、鈴村にはなかった。



「は!? 馬鹿な……ん……俺は目がおかしいのか!? 色が……とりあえず、もう上下関係なんてどうでもいい! あんたも倒れときなあ!」



 それはZONEを備えていない腰を落とした田崎から見れば、1秒を数えたかどうかの一瞬。神と崇めていた田村が世界のトップである鈴村にまばたきの間に倒される瞬間。現実を理解しきれない田村にとっても、それは次元が違う強さであり、悔しさの言葉だけを残し、心も折られる瞬間でもあった。



「がぁ! う゛がぁ! ご、ごの化け物があ゛!!」



「刈谷!」



「え!?」



 収容室の鍵を投げられた刈谷。それは刈谷からすれば隔離の必要性が無くなった事を伝える行動。



「か、管轄!」



「お前は身元だけ自分に戻れれば問題ないのだろう? 戻してやる……そして今日からお前がこの支所のチーフだ」



 突然伝えられる昇格。それは現チーフである桜の身を案じる。



「管轄、けれど……それでは水谷チーフが」



「いいの……あなたが無事であるなら。私は春日が死んだのを確認した時に芝居をした。あなたが春日であることに否定を続けると、壊されてしまう可能性を感じたから」



 芝居を何度も繰り返すRの桜。全ては刈谷のために動いた芝居であり、その答えが今明かされた事を誠実に伝える言葉の裏には、刈谷からの完全な油断を誘う。



「水谷。余計な事はしない事だ! だがお前は賢い女だ……二度同じ事はしないだろう。お前にはこの支所の所長に任命する!! 町田は本部への転属。事実上の昇格だ。皆でここの秩序を護ってくれ。田村は職員のマインドコントロールによる職務妨害により警察に連行! その他共謀した職員は追って処分を下す!  以上だ!!」



 全ては直前に決まっていた筋書き。一切の隙も与えない言葉。善意の者は誰も犠牲にならず、悪意の者は制裁を受ける決定。その静まり返る空間で、唯一納得のいかない無知なる悪意は立ち上がる。



「はぁ……はぁ……こんな茶番……俺がリセットしてやる!! ハハハハハ!! もう失敗はしねえ! あばよ」



「くっ!! 田村!!」



 その銃弾の反響音が無くなったとき、Rの鈴村と桜は理解した。予定通りにデジャヴュは終わり、この世の不死現象が終わった事を。



「どういう事だ? 戻らない……管轄、これは」



「田村はこの世の歯車から外された。誰にも、田村を落ち着かせる場所が見当たらなかったんだろう……タイミングでもあるのかもな」



「管轄……春日の婚約者は」



「壊されてなければ、どこかにいるだろう……大丈夫だ。もし消えたとしても、消えたのはRであり、本体は生きているはずだ」



 Rの桜から聞いていた直前までの出来事。刈谷にとっても、それを疑う理由はどこにもなかった。いまだに部屋で震える咲の姿は、桜の影にしか見られていなかった。



「この世界は……造られた世界なんですか?」



「この世界の住人である限り気にする事はない。余計な詮索は本体ごと消えるぞ。ここは戦争の頃から呼ばれ始めたモンストラス世界という地球。事の大きさで勝手に呼ばれてきたが、そのうち……いや、とにかく今の秩序を保ってくれ」



「え……はぃ! 職務は全うします!」



 平和であることが全てである刈谷。自分の存在を認められれば、不都合のない世界。期待を込めた昇格とは別の思考で、鈴村と桜は目を合わし、これから起こることの合図でもあった。

 田村の死体を残したまま、すぐに立ち去る田崎を含めた職員三人。その目撃証言として十分な役割として、見られて良い全てのことは完了した。



「水谷、次するべき事はわかっているな? 後の事は任せる」



「はい、承知してます。お任せ下さい」



 事態が収まり、居る理由が無くなった鈴村は走り去った職員の後ろから続いて歩き出す。鈴村の足音が聴こえなくなった時は、倒れた田村を含めた三人しかいなくなった収容室前。



「チーフ……いゃ、所長。ここから消える理由がないんじゃないですかぁ?」



「ふぅ……綺麗にまとめられたものね。立場も処分も目覚めた者の混乱も、全てを静めた……あれが鈴村和明……モンストラス世界の管理者として適任ね」



「はぃ……まあ、悪くないですねぇ……ん……共感覚が消えた。これって、何か意味があるんですかねぇ」



「本体とRが同じ世界に現れる時、本来あってはならない情報が近い場所にいることで、同じ情報があるために、この世界に負荷がかかる」



「じゃあ、管轄はこの世界に2人?」



「そうね……そして、負荷が掛かり過ぎると何かを削除、又は最適化され存在の一貫性を保つ事になるのよ」



「昔から、ドッペルゲンガーを見るとぉ、早死にするっていう理屈な訳ねぇ」



「管轄以外で見えはじめた時には、何かある時よ。用心しなければ」



「ありましたよねぇ、共感覚見えた事。あの館で。そしてぇ、これで平穏なんですよね。今まで通り、自分の世界でいられるんですよね」



「そうね……そして、さよならよ刈谷」



 桜からすれば、田村を利用することで確認が終わった最後の作業。その一発の銃弾は、桜の野望が詰まった未来への期待。春日の言い放ったキャリアが手に入る期待。田村を追いかけるように、田村の上へ覆いかぶさる刈谷。支所の中でも非凡な身体能力を持つ二人は桜の野望という眼下に沈む。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ