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シンクロニシティ

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【シンクロニシティ】 意味のある偶然の一致は想いが同調した必然の願い



 18:26 モンストラス世界。精神病棟。

 鈴村と桜と弥生の前に現れた春日。その春日に向かって鈴村が話し出す。



「手間を掛けさせたな。だが、もうあいつには何も出来ない」



「中々諦めてないよ、あいつ賢いからね」



 春日は目の前にある事務用のデスクの上に葉巻を3本転がす。それは本体の鈴村がZOMBIEより受け取ったリンク用の葉巻である。



「君たちにあげるよ。でも、無くしても知らないからね」



「え、これって何なんでしょうか?」



 鈴村と桜は葉巻をデスクから拾い、胸の内ポケットへしまう。そして桜が弥生へ答えを伝える。



「町田にでもあげればいいわ。貰っておきなさい。使い道がない人には持っていても意味ないわ」



 冷たさも混じる言葉に、一先ずは受け取っておこうと白衣のポケットにしまう。



「じゃあ、まあ、あとは君たちに任せているから、好きにすればいいよ。ANYから情報は聴いたし、管轄がどうしたいのかわかった気がするから、みんな仲良く頑張ってね」



 気のない雰囲気で、今にもあくびでもするのではないかと、これからの出来事に興味を持たない春日。それを聴いた桜は、今しか聞けないと思える事を問い出す。



「あの、キャリアってどんなものなの?」



 その言葉を聞いた春日は、頭を掻きながら鈴村へ向かって話し出す。



「なんだ、結構みんな本当に仲がいいんだぁ! 俺は、目の前の鈴村くんにしか言ってなかったのに、水谷くんまで知ってるなんて! 今さら、そんなに意味のないゲームのつもりだったんだけどね! まぁいいけど、あれはねぇ、宇宙の答えかな」



 雲を掴むような語り口調で答える春日。皮肉を込めたような名指しで鈴村を見るが、鈴村は動じない。その具体性を持たない答えに桜は言葉を返す。



「ただの遊びなの? 意味がないの?」



「意味を作れる環境も、もう鈴村くんがやってくれてるよ。じゃあ、どうなるか眺めさせてもらうよ。まだ刈谷くんが保有してるみたいだから」



「え? それって」



 三人の前からシンクロにより姿を消す春日。その言葉を聞いて、今必要な事を考える桜。それは、もしも地下二階にいる刈谷に備わっているものならば、デジャヴュが無くなる今、桜にとってチャンスであり、その正体がわかる可能性。けれど、もしも鈴村も狙っているのであれば、どのように奪えば良いかと頭によぎる。そんな思考が桜を支配している時、鈴村は桜に伝える。



「お前が刈谷を殺ればいい。奪うつもりはない。世界をひとつにすることだけが俺の目的だ」



 その言葉を聞いた桜は、心を読まれたような気分を隠すように自分の行動を話し出す。



「それでは、とにかく刈谷の所に戻ります。そして、自分がオリジナルの世界にします」



「ああ、そっちは任せた。弥生、尋ねたい事がある」



「は、はい。どんなことでしょう」



 Rの鈴村が弥生に尋ねる話に興味がない素振りで、春日が入ってきた地下への階段に向かい駆け出す桜。その時、桜の影は別の所いた。

 職員研修室で熱弁を振るっていた田村。すでに主要な目覚めている職員を残して、それ以外の職員はチーフである桜を探していた。



「また時間が戻りましたね田村さん!」



「ああ、これを本部の不死会議で実証できれば、俺たちは本部の職員となれるぞ! 所長になるまで待ってなんて老けるような事は飛び越すんだ!」



「僕の最大級のコネできっと管轄も聞いてくれますよ!」



 田村を含めた四人。その中にいる田崎。半年前に管轄に見込まれた事を自負する田崎は、普通なら対面も難しい管轄である鈴村との対面は可能である事を強く発言する。



「おお! 今すぐ俺たちの存在を、重要会議の顔として知らしめるぞ!」



「はい! 行きましょう!」



「そうですよ! さっきの駐車場で起きた不可思議な材料も言ってやりましょう!」



「さっきより早い時間なら邪魔されないかも知れません!」



 動き出す田村と取り巻き。意気揚々と四人で本部へと向かおうとした瞬間、その後ろに歩く五人目の桜の影は、その四人に見えている景色を変える。



「お? おい、ここは……お前らどこに見える」



「こ、ここは、さ、さっき来ました! ここは!」



「シッ! 静かにしろ……精神病棟か?」



「はい……そうです」



 声が響く広くない廊下。小声で話し出す田村と職員三人。守衛が気絶している様子と、開錠された扉から階段を覗けば、全ての鉄格子が開錠されているのがわかる。



「この階層は、刈谷と偽った春日がいる所か?」



「そうです。この階層の奥です。あ、声が」



 耳を澄ます四人。それは地下二階の階層の奥から響いてきた。それはRの桜がRの刈谷と、この世界について語り合っている声。



「じゃあ……さっき見たチーフは」



「さっきの私は、きっと人間……私はRよ。加藤達哉の館が爆発した時から、私は何度も時間が戻り、目覚め、理解した。意識が目覚めてからシンギュラリティ世界に行ったから」



「なんなんですか? シンギュラリティ世界ってとこは……え、チーフ!!」



 銃声が響く収容所。横から腕を撃たれた桜。その衝撃に、白い天井を見上げながら、刈谷の目の前で倒れこむ。しかし、その様子を桜は知っていた。影で田村の様子を監視していた桜。この階層にシンクロさせ、想像通りにこの階層の事を調べ、そして声を張り上げる自分の声の元に近づき、この話に興味を持つことを。



「あああ!!」



「春日さん……俺もそこんとこ気になるんですよ?」



「田村!? お前……何してる!!」



 即座に職員によって囲まれ、行動を制限させられる桜は、自分が緊迫した状況であることを演出する。



「くぅ……田村! 私を殺せ!」



「チーーーフ! 近いうちに会えましたね。そんな事したらまた逃がしちゃうだけでしょ~! さぁ! 俺の話をちゃんと聴いてもらえますか?? こ・こ・に 導かれた理由も含めて! そして、シンギュラリティ世界~? なんですか~? その興味の絶えない世界は~! そこが俺達の求める世界なんでしょ~? ず るいなぁ~……拘束しろ!!」



 桜にとって悪人としての演出を期待以上に天然でこなしてくれる田村の言動に、下をうつむいた桜は、微笑みが止まない表情を長い髪で上手に隠す。

 刈谷を助けたかった全てを知っている上司が、真実を伝えるタイミングを見て、今やっと伝え始めた時に現れた田村という悪人。体を張って守りたいが、後ろ手に手錠をされて猿ぐつわにより発言力もない無力な自分。あとは、いつ刈谷が収容されている白い鉄格子の鍵を開錠しようかタイミングを図っていた。それは田村と刈谷で同士討ちとなる可能性。



「春日さん。あんたも拘束したいが……あんたはあなどれない。ちょっと厄介だ。しばらく留置されててよ! 用があるときに来るからさ?! ハハハハハ!!」



「チーフ!! てめえ田村ー! かかってこいよ!!」


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ