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シンクロニシティ

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 管轄室より刈谷を目掛けてリンクしてきた桜。桜の刈谷への愛情を利用して誘導したRの鈴村は、桜がリンクした直後に、同じ精神病棟へリンクしてきた。その情報をRの桜へ伝えるために、そして全ての指示をANYへ命令してきたRの鈴村は、桜と刈谷のこの面会が、最後の対面であることを知っていた。それを疑わない桜の眼差しは、自分の期待と刈谷の希望を乗せて、言葉を伝える。

---*---



「今説明は難しいわ。けれど、モンストラス世界からシンギュラリティ世界に帰れれば! あなたは自我を壊されなくてすむわ!」



「シンギュラリティ世界!?」



「そう、そして自分から死ぬ真似はしないで。壊されるから」



「壊される? 誰に!」



 その瞬間、鉄格子が開く音が刈谷の収容室まで響く。それは守衛室の前の鉄格子の扉だと判断できる距離感。刈谷からすれば、再び本体の鈴村と名前を聴いていない咲の二人が現れたとも考えられるが、予定よりも早い事に、そのままを口ずさむ。



「管轄か? 予定より早い」



「管轄……鈴村。まずいわ! それじゃあ……無事でいてね! 愛してるわ!」



 Rの鈴村がファクターと意識を刷り込まれている桜。本物の鈴村と偽っているRの鈴村に言われた通り、刈谷に銃口を向け、刈谷のデータをシンギュラリティ世界で分析するという目的のため、疑いもなく引き金に力を込める。



「言ってる事とやってる事が違うじゃねえかぁ!」



---*---

 刈谷を直視することが苦しくなる桜。何人も刈谷のZOMBIEを銃撃してきた。それでも発砲したくない。心臓は高鳴り、それでも、確実に一発で目の前の刈谷を絶命させないと、刈谷を苦しめてしまう責任感。心臓の太鼓が邪魔に感じる。思考の刹那は、遠ざかる刈谷との生活。二人の生活。データの産物と思えない刈谷の存在。そこに勇気を感じた目に映るもの。それは刈谷の白い収容室に見え隠れしてきた共感覚の紫なノイズが、この世界は本物ではないと納得させてくれる現象と感じられた。

---*---



 その時、Rの桜が影として移動していた場所は、守衛室と刈谷の収容室の間ほどの位置。守衛室前を肉体で通過していないRの桜にとって、守衛室の方から聴こえる扉の開閉する音は理解できなかった。誰かが階段を通過しているのか気になるRの桜。けれど、わからない誰かに邪魔をされる前に、Rの刈谷と面会して、少しでも油断させるための信用をされるために、急いで現れた雰囲気を出しつつ、走りながら名前を呼ぶ。



――誰か後ろから来た? いや違う。それよりも……「刈谷!!」



 最後の角を曲がったと同時刈谷の名を叫ぶRの桜。刈谷の姿と、もう一人である本体の桜。一見は自分だとわからなく、髪型も違う本体の桜の背中を眺めた瞬間、本体の桜の握る引き金は、発砲音の反響が轟きながら、跳ね返る共感覚のグレイな色のノイズと共に時間が戻る。



――私の本体ね。まだこの世界は時間がさかのぼるわ。



 18:25 それはほんの少しのデジャヴュ。目の前には世界が更新された事を知らない弥生。Rの桜が弥生の目の前に戻る。



「彼はね、危なっかしい事をわざと言って試す性格なの。だから何も知らなかった私なんかを引き込むのよ。基本は真面目で機転も利くから上手くかわしてるつもりみたいだけど……あれ? 聴いてます? チーフ……管轄もいない」



「記憶がないのね。一度時間は進んだのよ。その先の内容はね……」



 目覚めていない弥生には、この数分間の事実はなく、会話をしている最中に戻っていた。Rの鈴村が桜と弥生に伝えていた事の記憶を弥生に説明すると、再びRの鈴村が現れた。



「シンギュラリティ世界に本体の桜は戻った。遅くともあと30分以内には不死の世界は終わりだ。水谷、不死現象が終わったと思えた時、刈谷の存在も終わらせるんだ」



「わかりました。誰かを使って試してみます。あと管轄、ほかにもこの精神病棟を動いている者がいます」



 地下二階で感じた気配。Rの桜にとっては守衛室前の扉ではなく、階段途中の鉄格子の音と判断していた。

 その時、地下へ続く鉄格子が開錠する。開錠する音に反応する三人。地下から誰が上がってきたのか、そして、話を聞かれたのかと警戒する。影を置いてこの場から離れようとする桜。ゆっくりと開く鉄格子。地下の階層ごとにいる守衛であるならば、一瞬で終わらせようと。



「ああ、みんな集まってたんだ。あとね、本体の鈴村は地下三階だよ」



     ◆◆◆



 18:57 シンギュラリティ世界。森林の扉。

 春日の姿をした者と咲の前で開かれた扉。それは二人がこの場にいることを知っているかのような招き。意味がわからず男に同行した咲は警戒するが、男はその扉へ近づいてゆく。



「ちょっ! ちょっと! なんか変だよここ!」



「ハァ……ハァ」



 咲の言葉に対しての答えはなく、十分に開いた扉から覗ける階段。男は地下へ歩めるその階段を警戒することもなく、急ぐこともなく、一歩ずつ降りる。

 歩むたびに左右のライトが照らされる。横道もないその下るだけの階段は、まだその到着する気配が見えない深さで続いている。



「ちょっとー! いいの入って!? もう! ……待ってよ!」



 追いかけるように同じ階段を下っていく咲。壁に片手を持たれながら、それでいて頼りない足の運び方を不安に感じた咲は、男がつまずかないように一歩前を先に下りながら体を半分、男の胸側から支える。



「あ、ここから段差が無くなって……真っ直ぐ歩けるみたいね!」



 階段が終わり、目の前の道を真っ直ぐ進む二人。支えていた手は背中から腰を持つ形に変わり、左右のライトは到着地点まで全てが照らされた。

 その道の突き当たりは、一見扉とは感じない、左右のライトがUターンするように折り返しているだけの壁だった。



「あれ? この先は?」



 突き当たりまで到着した二人。ノブもなければボタン一つもない突き当たり。ライトも壁とフラットに面している壁は、凹凸なく、何か発見できる特徴もない。



「もぉ~! 何なのこれ!」



 一定時間突き当たりでたたずむ二人。咲は振り返り、帰路に足取りを進めようとしたとき、床は左右に一本の線が引かれた。



「え? あ、これって」



 上昇する。それはエレベーターとして機能を始め、早すぎず、そして遅さも感じない程度の、上から下に移動する壁に触れても爪を引っ掻く程度に怪我をしない速度で上昇する。それはほぼ地上に近い場所であろうか、もう地上が見えるのではないかという感覚まで上昇すると、ひとつの空間で停止した。それは天井を見上げれば、森林に囲まれた先ほどの入口が一番奥にそびえ、その入口から階段の形にいったん床まで続き、地下へ潜っている。そこからおおよそ直径が50mほどであろう外の様子がその広い部屋から見える。一見は外かと感じるほどの開けた空間に思えたが、メートル単位に碁盤の目に縦横の直線が張り巡らされていることから広大なモニターだと判断できる。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ