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シンクロニシティ

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「水谷チーフ! お疲れ様です! 収容者との面会でしょうか」



「見回りよ。裏へ回るわ」



「あ、それはご苦労様です」



 精神病棟の裏側に回り込む桜。桜自身は回り込み、入口付近に影を残した。警備員から精神病棟の入口の鍵を持ち上げると、警備員が気づかないうちに扉の鍵を開錠する。そして開錠の音と共に、影を室内へ潜り込ませる。その影が見た認識色は青。連絡がなく開錠される精神病棟の入口前で、散弾銃を構えながら入口の脇に隠れている弥生の姿。



――居たわね。予想通り警戒心が強いわ。けれど、香山は目覚めていない認識色。どうやってこの世界を理解しているの?



 香山がかがんでいる真横に影を近づける桜。外の様子が理解できない弥生。真横の存在に気づかないまま、散弾銃は宙に浮かび、床に投げられる。



「え! だ、誰かいるの!?」



 弥生の目には何も映らない。映っていないはずだった。目の前には少しずつ対面する建物のレンガの壁が見えづらくなる。それは影と外にいた桜が同化していく過程。透明な影は形をつくり、立体的に浮かび上がるように、桜の顔を認識できるまで姿をはっきりと現した。



「チ、チーフ……」



「香山弥生、あなた、知っているでしょ?」



「な、何をですか? チーフ、あなたは一体」



 理解が出来ない様子の弥生。そして、その空間には桜と弥生の二人だけのはずだった。二人以外の声が、レンガの壁に反響してこもるように響く。



「俺たちはこのゲームを共有した仲間ということだ」



 振り返る桜。そこには、壁を背もたれにたたずんでいる鈴村の姿。その一瞬、桜と弥生の二人は躊躇する。その鈴村が本体であるのか、Rであるのか。



「水谷。半年ぶりだな」



「か、管轄! こちらの世界の管轄ですね!」



 うなずく鈴村の様子に、その言葉を聴いた弥生は理解する。知らないところでチーフである桜も自分たちの仲間だと。



「管轄、お久しぶりです。今日がその時なんですね。チーフも仲間だとは知りませんでしたよ」



---*---

 桜よりも先にファクターとなっていた弥生。しかし、認識色は青。それは目覚めていない証。デジャヴュが実行されても記憶が残らない者。元々は恋人として交際している者からの誘いによる協力者。幾度となく世界が更新されても、世界に目覚めている恋人からの言葉を信用できなかった。

---*---



「お前の恋人は、監視を続けているのか?」



「はい、管轄。町田から最初に話を聴いた時は、頭を疑いましたよ。けれど、専任補佐の田村が自分の死体を半年前に加藤達哉の館から持ってきたことで確信が持てました。もう一つの世界があると理解できましたわ」



---*---

 弥生の恋人である町田。それはRの桜と同様、この世界の目覚めた人間を監視する役目。それはファクター同士が裏切っていないか監視する役割でもある。どのような事態でも、お互いがこの世界を唯一だと認識しているフリを続けなければならない。仲間だと聴いていても、知らないフリを続けることで、シンギュラリティ世界からのANYや鈴村からの監視による情報の漏洩を防いでいた。

---*---



 桜は所長である町田に対しての懸念を鈴村へ伝える。



「所長は危なっかしいわ。今朝は崖の上でカマをかけるような質問をしてきたり、加藤達哉は存在しないっていうことで通してきたのに、本体の管轄へ加藤達哉は爆発で飛んだと言っていたわ。そのせいで、私は本体の管轄に疑われて尋問されたわ」



「あ、わかるわ。彼はね、危なっかしい事をわざと言って試す性格なの。だから何も知らなかった私なんかを引き込むのよ。基本は真面目で機転も利くから上手くかわしてるつもりみたいだけどね」



 桜と弥生の愚痴ともとらえられる言葉に、鈴村はその不安や懸念を払拭しやすい言葉を掛ける。



「いいだろう。それなら、昇格と称して、本部へ向かわせよう。そして水谷、あっちの鈴村との会話を教えてくれ」



 ここまでの経緯を伝える桜。ファクターの密会と言うものか、初めて自分たちが同じ目的を持つ仲間として、自分たちの知っている情報や懸念を共有し合う。その情報を元に、Rの鈴村は判断を伝える。



「水谷、本体の鈴村が言うように、確かにシンギュラリティ世界はもうもたない。あっちの世界よりもモンストラス世界の方が未来がある」



「それなら、この世界に居ろと?」



「都合は悪くないだろう。向こうの人工知能であるANYからお前の情報は得ていたが、お前はこの世界で神となるシンクロを使いこなしているはずだ。本体がいなくなればいいだけの話だ。世界はそれで一つになる。そして、もうすぐでデジャヴュは起こらなくなる」



 Rの桜にとって悪く感じない条件。すでにシンギュラリティ世界で未来を感じなくなった今、それでも桜自身は超越した力を保有した存在。その世界の中で、本体の存在がなければ桜自身は唯一の存在になれる。そして、運命のキャリアというものを手に入れた時、自分が絶対的な存在になると。そのような野心を口にせず、今するべき事を伝える。



「本体の鈴村が言っていたように、刈谷へ対しての信用を少し回復してきます」



「そうか。こちらは人工知能ANYへの必要な命令は全て終わらせた。更新待ちだ。この世界がまとまるのも時間の問題だ。あとな、本体の水谷を誘導して、先にリンクさせておいた」



「え? 私の本体ですか?」



「俺を本体の鈴村と信じて、死なない世界という理由で、データを分析するために刈谷を銃撃するように言ってある。出くわしたら、うまく誤魔化せ。デジャヴュが発動すれば、いったん俺もシンギュラリティ世界に戻されるだろう」



 Rの桜はうなずくと同時に、影の意識を地下二階の階層へ飛ばす。

 18:28 モンストラス世界。精神病棟。地下二階。

 収容されているRの刈谷。直前まで鈴村と咲が現れて、自分の存在を確認できる証拠が見つかったと感じていた。その歓喜を味わうまでもなく、突然苦しみだした咲。再び時間がさかのぼったRの刈谷の前に、シンギュラリティ世界の桜が現れる。



「き……恭介?」



「誰だ!?」



「恭介……逢いたかった」



「チ、チーフ!?」



 両手を握ってくる桜の行動と表情に混乱するRの刈谷。チーフとして、同僚として接していた上司からの近い接近。目を丸くして聴くことしか出来ない刈谷に対して、桜は言葉を続ける。



「恭介……もう少しよ」



「ちょっ! チーフ! どうしたんですか!? 恭介って」



「私に見付かると話がおかしくなるけれど、この世であなたの味方は私だけよ」



「私に見付かる? 私って、あんた……誰だ? どこから現れた」



---*---
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ