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シンクロニシティ

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 管轄室では、情報が響いている。それは、通常のデジャヴュであれば一度で終わるANYのアナウンス。2時間前にRの鈴村が『自動更新を解除する』を実行したため、鈴村の声紋で命令待ちをしているANYのアナウンスが続いている。それを聴いているのは、拳銃を握り締めた桜ただ一人だった。



<モンストラス-自動更新不能-田村龍平>



<シンギュラリティ-鈴村和明-リンク-モンストラス>



<シンギュラリティ-鈴村和明-モンストラス-LIFE YOUR SAFE-特別病棟>



<モンストラス-自動更新不能-春日雄二>



<自動更新解除-命令更新環境-継続中>



「今、管轄がモンストラス世界にリンクしたの? 春日雄二? それって、恭介のこと!? 恭介を更新して!! いや、春日雄二を!!」



【命令された時の声紋が一致しません。認証されません】



「刈谷恭介をシンギュラリティ世界に戻して!!」



【命令された時の声紋が一致しません。認証されません】



「管轄は!! Rの鈴村はどこ!!」



<R-鈴村和明-モンストラス-LIFE YOUR SAFE-特別病棟>



 桜がひとりたたずむ管轄室。Rの刈谷がいる精神病棟から戻された時は管轄室にいたRの鈴村。その時にRの鈴村は桜に伝えていた。「モンストラス世界の鈴村が精神病棟にいる。刈谷を危険な目に合わせないように、俺が見張っている」と。それから20分程待っていても現れないRの鈴村。それどころか、ついさっきモンストラス世界にリンクしたという報告アナウンス。さらに響き渡るのは、田村龍平と春日雄二がデジャヴュされていないという報告アナウンス。



---*---

 アナウンスに流れる春日雄二とは、認識がRの春日雄二となった白い鉄格子の中にいるRの刈谷恭介。直前まで、管轄室からモンストラス世界へリンクしてRの刈谷恭介と精神病棟で会話していた桜。桜自身がRの刈谷を拳銃で発砲した事実と、発砲したその後は鈴村からデジャヴュにより時間がさかのぼると聞いていた桜は、それが今になってデジャヴュがされていないアナウンスの報告に混乱する。

 Rの鈴村によってデジャヴュの自動更新は2時間前の命令により準備が終わったANYによってほんの数分前に解除され、命令更新とされている。それを解除できるのも命令した鈴村。本体の鈴村と思って接していた桜は、本体の鈴村が今になってモンストラス世界にリンクしていることを知り、混乱が増す。

---*---



「どうして!! どうして恭介は戻ってないの!! 鈴村!! どうして!? 私が恭介を殺したの!? いや、イヤーーーー!!!!」



 管轄室に発砲音が反響と共に轟く。何度も撃ち続ける桜。ANYのスクリーンモニターへ、スピーカーへ、監視モニターへ。銃弾が跳弾として壁を跳ねる。頬をこすり、太ももに埋まり、痛みを感じさせない奇声を繰り返し、全てを否定する。



<モンストラス-自動更新不能-春日……>



「嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! イヤあああー!! 恭介!! 私が!! 私が殺した!! 鈴村!!!! どこだあああ!! あぁぁ……はあぁ……ハァ……助けて……恭介ぇぇ……苦しぃょぉ……」



 刈谷の本体とRの区別がつかない桜。刈谷を殺したと感じている桜。鈴村に裏切られたと感じる桜。どちらの鈴村が正義なのか、悪なのか、理解ができない。



---*---

 広くない空間である管轄室に独り。思い出すことは、工場に閉じ込められた苦い思い出と、初めて刈谷と出会って救われた輝かしい思い出。



 狭く孤独とも認識してしまったこの場所で、その気持ちを忘れられる瞬間は刈谷と一緒にいるか、銃撃をしている時だけだった。苦しみを忘れたい桜。拳銃の残響音に耳の機能は一時的に奪われて、頭に直接響く衝撃音。銃弾を発火させるための雷管へ衝撃を伝える撃鉄はすでに感触が柔らかかった。跳弾される元からはすでに火を噴く事はなく、ただ引き金を引き続けている桜。心の苦しみと、実感してゆく体中に熱く燃えるような傷の痛みだけが走る。血が体中を巡る感触がする。傷口を駆け回る鈍痛。続いて、殴られたのか、焼かれたのか区別もつかない激痛が交互に伝わる。伝わる痛みと同時に冷静が戻ってくる。膝をついて顔を下にうつむかせて、言葉を失う。少しずつ、再び耳に入ってくる情報。雑音が混じったアナウンスは詳細を知ることが出来ない。それはふさいでいない耳に耳鳴りと交互に桜へ認識させる。頬から伝わる心臓の鼓動。肩から教える心臓の鼓動。太ももに伝わる高ぶる血脈は心臓の鼓動。体中に伝わる心臓の鼓動を感じさせる太鼓は、うつむきながらも眼肉に力が寄り、切れ長にすわり始めた眼光は自分に対しての罪悪感を銃弾として吐き出し、決意に変わる。

---*---



<……ル-鈴村……明-モンス……ス>



「ゆる……さない……す、鈴村ぁぁぁあああ!!!!」



     ◆◆◆



 18:18 モンストラス世界。支所裏口。

 シンギュラリティ世界より時間が遅れているモンストラス世界。すでに終わった時間。自動的に調整され、少しずつシンギュラリティ世界の時間に近づく。

 咲より聞けるだけの情報を聞き出したRの桜にとって、この世界で必要なものと不必要なものが何かを考える。



――咲からは予想通りの情報。いや、知らなかった名前もある。すでに本体の鈴村から言われたクローンの話は問題じゃないわ。キャリアを持っているかどうかが鍵なのよ。私が望めばモンストラス世界が唯一の星にもなれる。本体の鈴村が私を消滅させるかは、きっと対面するまで判断しないはず。次に対面した瞬間、鈴村は私が抹殺するわ。だけど、この星って、どうやってシンギュラリティ世界で管理されているの? 宇宙空間に? シンギュラリティ世界の中に? 仮想空間? わからないわ……けれど、確実に要らないものは、刈谷恭介……あなたよ。けど、まだ人を殺めることができないモンストラス世界。しばらくは、本体の鈴村が言っていたように、この世の真実を教えてあげる。



---*---

 精神病棟へ隔離されているRの刈谷。キャリアというものがどのようなものかわからない桜。キャリアを抱える刈谷の体を乗っ取るか抹殺することが条件とされる春日の発案したゲーム。本体の刈谷を加藤達哉の館で殺害したと信じている桜にとって、まだキャリアを保有している実感が沸かない。それならば、可能性として、Rの刈谷も抹殺すれば、消去法のように実感へ近づけると考える。

 Rの桜が知らないモンストラス世界の位置。シンギュラリティ世界の地下に実際の惑星として、地上は仮想データとして作られたモンストラス世界。移住が可能となった時点で宇宙に打ち上げられる予定であるモンストラス世界。それは鈴村の最高傑作であり、人類の生存のためだと考えて作られている。

---*---



 精神病棟へゆっくり進むRの桜。その収容所の前に立ちふさがる二人の警備員。暗がりの中から現れた桜に気づいた警備員はチーフである桜へ丁重に話しかける。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ