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シンクロニシティ

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 その森林は人工的な部分が大部分であったが、ドームより外であり、日陰で湿度が保たれ、天然の草や花も所々あった。砂漠化していくことを防ぐため、太陽の直射日光を避けるためにも大掛かりな工事により人工樹木を増やしていく工事はシンギュラリティ世界において終わる事のない作業ではあったが、二人の迷いこんだ森林は必要以上に人の侵入を拒むかのように茂らせていた。男の歩みは道を知っているかのように止まる事を知らず、ほんの数分が数十分も歩いた気分にさせるほど帰路を不安にさせた。



「ちょっ! どこまで行くわけ!? もう! 死んじゃうわよ?」



「ハァ……ハァ……ハァ」



「もう! 私帰るわよ!?」



「ハァ……ハァ……ハァ」



 うなだれそうな姿勢で、今にも前に倒れそうな足取りで進む男。耳を貸さない男に対して帰る意思を伝えた咲も、言葉を投げるだけで帰ろうとはしない。帰路の心配と、春日の姿をした男の心配と、その男の怪我の心配や目的地への興味が入り混じる状態で、咲はすでに後ろからではなく、ほぼ真横に付いて歩いていた。



「ハァ……ハァ」



「え……ここ」



 森林の中、草木のない場所。それでも周りの樹木が内側に垂れ下がり上空からの確認は出来ないような空間。その空間の真ん中には地下への階段があるのであろう片手分のノブが付いた扉が一つ。一見して頑丈だと感じる古くない扉を守る厚みを感じるような10秒程度で一周できそうな外壁に守られてそびえていた。



「え、これ、入っていいのかしら……普通に鍵が掛かって……」



 無用心である意味を感じないほど立派な扉。それは開けられる代物ではなかった。内側から開錠されない限り。そのように思わせた扉は、音にして5回の開錠音と共に、ゆっくりと扉が開いた。



     ◆◆◆



 18:46 シンギュラリティ世界。林道。

 眠っている咲と別れた林道で頭を掻きながらたたずむ春日の姿がある。



「あれ~。めんどくさいなぁ。デジャヴュで戻されちゃったよ……せっかく鈴村を『あそこ』へ連れて行ったのに逃げられちゃった」



 同じ時間。18:46 シンギュラリティ世界。支所。



 モンストラス世界は何度かのデジャヴュにより時間の差が生じているシンギュラリティ世界に現れる鈴村。



「ハァ、ハァ……なんとか逃れられたか」



 シンギュラリティ世界にリンクした鈴村。

 モンストラス世界で春日と突然出くわした鈴村は、春日がシンクロを操り、ある場所へ飛ばされた矢先、Rの桜が起こしたデジャヴュにより時間がさかのぼる。その瞬間を逃さず、葉巻の中にあるカプセルを割り、シンギュラリティ世界に逃げ込んだ。そのリンクした場所はモンストラス世界と同じ支所の裏口ではあったが、人口が飽和した世界では、たたずむ鈴村を避けるように支所の職員が行き交い、立ち尽くす鈴村に声を掛けようとする職員もいた。



「あの、大丈夫ですか? 助けが要りますか?」



 鈴村の顔を知らない職員は親切心で声を掛けるが、目立つことを避けたい鈴村は声を返さずに軽く手を上げて心配ない様子を伝える。そしてすぐに声を掛けた職員には背中を向け、目的を持って歩き始める。



――誰の起こしたデジャヴュか知らんが、助かった。水谷が一度戻ってきたが、ここではその理由がわからない。とにかく、今はこの支所では駄目だ。助けがいる。あいつは、春日は、『あの場所』へ俺を放り込もうとした! シンクロを使いこなしている春日! お前は……まさか……ANYの一部なのか!?



---*---

 鈴村をモンストラス世界へ放り込み、ANYへの権限も鈴村より高く、モンストラス世界でシンクロを操る春日。その自由な行動力に鈴村はANYの化身ではないかと思考する。何が原因でどのようにすればそのようになったのかもわからない状態ではあった。けれど、一番納得しやすい理由でもあった。

---*---



 今の鈴村が一番求める場所へ走る。それはシンギュラリティ世界の支所と本部のおおよそ間にある研究施設。しかし、本部の重要施設であるため、おおやけには公開していない場所。本部の職員にも悟られないために秘密裏に開発を行っている『エンジニア』のための地下施設。本部にも戻れない鈴村。そしてANYに対してまで疑念を持ち始めた状態で命令を発動することも出来ない今、明らかにその原因がわかると想像できる、ANYを開発したエンジニアに直接尋ねるしかなくなった。



---*---

 人口の飽和の原因から住宅地の飽和へとなり公道は狭まり、縮小され、自動車によるハイヤーは需要が無くなり、ほとんどが3人乗りのハイウェイスクーターハイヤーとなっている都市部。

---*---



 スクーターの座席が指紋認証による料金体系のハイヤーの座席に断りもなく乗り込むと、たまにいる強引な客だと認識した運転手は耳を傾け、「進ませろ」と聴こえた矢先に低速で走り出した。



---*---

 備えてあるヘルメットの内蔵マイクとスピーカーにより直接運転手へある程度の道のりを伝えると、加速を始め、軽快に細い道を走り抜ける。その先はドームの外へ出る道のり。運転手の操作により座席の上で光る収納口。その中には強い紫外線を避けるためのコートを着用される事を義務付けられている。ひと時の停車時に、マントにフードが付いた銀色のコートを羽織ると、それを確認した運転手はまたスクーターを発進させる。

 ANYからの通信を遮断している地下施設。それでもネットワーク経由で侵入できなくもない危険性もあるが、そのセキュリティだけは破られないような施設であることを前提に考えて作られた空間。唯一のANYに対抗する手段でもある。

---*---



――ANYが誰の味方か確認しなければ。春日がもしもANYの化身であるならば、すでに味方は有り得ないか……しかし、正体がわかれば対応は出来る。



 考察する鈴村。その目的地だけは悟られたくない最後の砦。ほんの数十分で到着する道のりだけは邪魔が入って欲しくなかった。

 ハイウェイスクーターハイヤーは三人乗り。乗客は二人まで可能だった。それぞれに備えられたヘルメットは乗客同士会話することができ、運転手には、乗客から任意で通話ボタンを押さない限り、乗客の会話は運転手には届かない。鈴村が被るヘルメットには、運転手の声ではないものが聴こえてきた。



【逃げられると思った?】



     ◆◆◆



 18:11 モンストラス世界。支所裏口。

 鈴村が消えたあとに残されたRの桜は影で四次元を漂う。



――鈴村は、いない。どこにも感じない。あれは、やはりシンギュラリティ世界へのカプセル。どうして? 私の考えを見破られたの? 警戒された? まずいわ……もしも、鈴村がシンギュラリティ世界で人工知能に私の消去でも命令されたら……いえ、きっとそこまでバレてないはず。きっと、何か別の理由よ。そして、見つけたわ。風間咲。やっぱり家で震えていたのね。いい子にしててね。すぐに向かうから。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ